祭祀承継者とは? 相続との関係・拒否できるかどうかを弁護士が解説
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親族が亡くなった際に多く聞かれる悩みの一つが、遺産相続に加えて「お墓や仏壇などを誰が引き継いで管理するのか」という問題です。
福山市でも、単身または夫婦のみの世帯が半数以上を占める統計結果がでており、お墓の承継を望まないという声も少なくありません。実は、お墓や仏壇、神棚などの供養・礼拝に使用する物は、法律上「祭祀(さいし)財産」と規定されており、通常の相続のルールとは異なる特別な取り扱いを受けます。
この記事では、相続時に問題となることが多い祭祀財産の承継のルールや、承継を拒否できるのかについて、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和2年国勢調査概要」(統計局)


1、祭祀承継者の役割と決め方
祭祀承継者とは、お墓や仏壇など「祭祀財産」とされる物を引き継ぐ人のことです。
ここでは、祭祀承継者の具体的な役割や、祭祀財産の範囲、さらに誰が祭祀承継者になるのかについて解説します。
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(1)祭祀承継者の役割
民法では、亡くなった方(被相続人)の財産のうち、祭祀財産を相続の対象外として扱い、祭祀承継者が一括して取得すると定めています。
通常の相続では相続財産を相続人が分割して取得するのが原則ですが、祭祀財産には相続のルールが適用されないので、「相続」ではなく「承継」という表現を用いています。
また、祭祀承継者は祭祀財産の取得に加え、お墓や納骨堂の管理、供養料や管理費用の負担、年忌法要の執り行いなどの役割を担います。
ただし、これらの役割は法的な義務ではありません。お墓の管理など、供養を行う意思と能力を持つ人を祭祀承継者と定めて、祭祀財産を引き継いでもらうというのが祭祀承継のルールの趣旨ということもできます。 -
(2)祭祀財産とは
相続財産から除外され、祭祀承継者が承継する祭祀財産は、以下の3つに分類されます。
祭祀財産の種類 概要 系譜 先祖代々の血縁関係のつながりを表す書類や絵図のこと。家系図や過去帳がこれにあたる 祭具 位牌や仏壇、神棚、十字架など、礼拝や供養に用いられる器具 墳墓 一般的な墓石や墓碑、埋棺など
また、お墓と一体として使用される墓地の敷地についても、祭祀財産に含むと考えられています。なお、遺骨は祭祀財産には含まれませんが、祭祀財産に準じて祭祀承継者に帰属するものと考えられています。
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(3)祭祀承継者の決め方
祭祀承継者になる資格に特別な制限はありません。親族や相続人である必要はなく、婚姻などにより改姓した人でも祭祀承継者になることができます。
ただし、墓地や霊園の承継に関する規約には、先代と一定の親族関係にあることが条件になっている場合もあるので確認が必要です。
法律上、祭祀承継者は以下の順序で決定されます。
祭祀承継者を決める流れ ① 故人の指定 遺言書で指定されるのが一般的。故人が生前に日記や日常会話などの中で明確に祭祀承継者を指定していたことが明らかであれば、その意思が尊重される ② 慣習 故人の指定がない場合は、慣習によることとされている。ただし、慣習により祭祀承継者が決められるケースはほとんどない ③ 家庭裁判所による指定 ①②の手順で祭祀承継者が決まらない場合は、家庭裁判所の調停や審判によって決定される
②の慣習は、法律上の明確な規定はありませんが、故人の指定がない場合、親族間の話し合いにより承継者が決められることが一般的です。
まずは相続人間で話し合いを行い、他の親族の同意を得るというのも一つの方法でしょう。
なお、「長男が継ぐべき」「他家に嫁いだ人は継げない」といった考え方は、現代の民法の理念とは相容れず、慣習といえるものではありません。
③の家庭裁判所では、故人が生存していたのであれば、おそらく指定したであろう人物という観点が重視されます。具体的には、故人の意思や承継者との関係性、身分関係、祭祀を主宰する能力や意欲など、諸般の事情を総合的に判断されます。
2、祭祀承継と遺産相続の関係
祭祀承継は、お墓や位牌などの祭祀財産を引き継ぐ特別な手続です。通常の相続手続とは異なるルールがあるので、その関係や違いについて解説します。
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(1)祭祀財産は相続手続から除外される
相続が発生すると、故人(被相続人)の預貯金や不動産などの財産は、原則として法定相続分に従って相続人全員が共有することになります。
一方で、お墓や位牌、仏壇などの祭祀財産については、この原則の例外として扱われ、祭祀承継者が取得します。祭祀承継者は必ずしも相続人である必要はなく、相続放棄をした人であっても、祭祀承継者になることができます。 -
(2)祭祀の費用を遺産分割で考慮してもらえるか
祭祀承継者には、墓地や納骨堂の管理費用、永代供養料、年忌法要の費用など、さまざまな経済的負担が発生します。また、お墓の管理などで問題が生じた場合は、祭祀承継者が対応を求められることになります。
これらの費用は原則として祭祀承継者が負担すべきものとされていますが、この負担を理由に遺産をより多く受け取る法的な権利は認められていません。ただし、遺産分割は相続人全員の話し合いによって決めることができる手続です。
そのため、祭祀承継者の経済的負担を考慮して遺産の配分を調整することは、現実的な解決方法としては十分に考えられます。
なお、祭祀に関連する費用の中でも、特に葬儀や埋葬の費用の負担について問題になることがあります。葬儀等の費用も基本的に喪主や祭祀承継者が負担すべきものと考えられていますが、相続人の合意により、相続財産から支出するという解決例も多くみられます。 -
(3)祭祀財産は相続税の課税対象外
相続税は、相続財産から借金など債務の額を控除した額に対して課税されますが、祭祀財産は課税対象外とされています。
生前に自身のお墓や納骨堂を購入すると相続税対策になるというのは、このような特例があるからです。
ただし、社会通念上、一般的な祭祀財産として認められる範囲を超えるものについては、課税対象になる可能性があるので注意が必要です。たとえば、著しく高額な仏具や骨とう品、投資目的で購入された墓地などは、税務署の判断により課税対象となることがあります。
3、祭祀承継者になりたくない場合の対策
祭祀承継者になると、基本的に次世代に引き継ぐまで祭祀を主宰する立場になり、重荷に感じられることもあるでしょう。
祭祀承継者の指定を避けたい場合や、指定された後の対応について解説します。
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(1)祭祀承継者に指定されると拒否できない
相続の場合は相続放棄により相続人としての権利義務から離脱できますが、祭祀承継では指定を拒否することができません。
故人が遺言などで指定した場合や、家庭裁判所が指定した場合は、その決定から逃れることはできないのです。
故人が祭祀承継者を指定していなければ、親族間の話し合いで決めることが可能です。
祭祀承継者を指定する際は、トラブルを回避するためにも、以下のような対応も併せて行うとよいでしょう。
- 経済的な事情や遠方居住などの具体的な理由を説明する
- 祭祀承継者として適任な親族を具体的に推薦する
- 遺産分割において、管理費用の負担を考慮した調整を提案する
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(2)供養の方法の選択と見直し
供養の方法は、祭祀承継者の判断で決めることができます。
最近では、「墓じまい」をして永代供養や納骨堂を選ばれるケースも増えています。また、位牌や遺骨を自宅に置いて供養する「手元供養」や、法律で認められた場所での「散骨」など、新しい供養の方法も広がってきました。
従来の方法で供養を続けるのが難しいのであれば、無理のない方法に変えるのも一つの方法です。ただし、現実問題として供養の方法の変更は慎重に進める必要があるため、祭祀承継者を引き受ける際に、将来的な方針として提案しておくのが賢明でしょう。 -
(3)祭祀財産を譲渡する
祭祀承継者になった場合、祭祀財産を自由に他の人に譲渡することができます。お墓の管理も、引き継ぐ人が納得するのであれば、引き継いでもらうことができます。
4、祭祀承継・遺産分割でお困りなら弁護士に相談を
祭祀承継の問題は、少なからず金銭的利害が絡むため、遺産分割と関連して複雑なトラブルに発展することがあります。
祭祀承継に関するトラブルと、弁護士のサポートを受けるメリットについて解説します。
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(1)祭祀承継に関するトラブル
祭祀承継をめぐっては、承継者の人選について親族間で意見が対立することがあります。
たとえば、複数の親族が祭祀承継者になることを希望する場合や、反対に誰も引き受け手がいない場合などです。
このような場合、弁護士は第三者の立場から、家庭裁判所での審理を想定した上で、誰が承継者として適任かを判断し、望ましい解決に向けたアドバイスを提供します。
また、お墓の維持管理など供養の方法についても、親族間で意見が対立することがあります。こうした場合にも、弁護士は将来的な費用負担などの説明も交えて、長期的な視点でのアドバイスが可能です。 -
(2)遺産分割が絡むトラブル
祭祀承継をめぐる問題は、しばしば遺産分割にも波及することがあります。
たとえば、祭祀承継者が墓地管理の負担を理由に遺産の増額を求めたり、既に成立した遺産分割の見直しを要求したりするケースが典型的です。
金銭が絡むトラブルの解決には、法律による判断基準を理解した上で、合理的な解決策を見出すことが重要となります。
弁護士は遺産分割をサポートした経験と知見を活かし、依頼者が不当な譲歩を強いられることがないよう、適切な解決策を提案します。さらに、交渉や裁判所での手続についても、弁護士が代理人として対応することが可能です。
5、まとめ
お墓や仏壇などの祭祀財産の承継には、通常の相続とは異なる特別なルールが適用されます。
祭祀承継者は、故人が生前に指定したり、親族間の話し合いで選ばれたり、あるいは家庭裁判所の判断により決められたりして、相続放棄のように、確実に指定を避ける方法はありません。
祭祀承継について親族間で意見が分かれたり、遺産分割と絡んで複雑な問題が生じたりした場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士は第三者の立場から、将来を見据えた適切な解決策をご提案いたします。ご家族の大切な供養の問題だからこそ、適切なサポートを受けながら、円満な解決を目指していただければと思います。
ベリーベスト法律事務所 福山オフィスでは、祭祀承継や相続全般に関するご相談を承っております。お墓などの承継についてお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。
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