任意整理をしたけど支払えない……どこに連絡する? 対処法はある?
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令和2年度司法統計年報第4表によると、広島地方裁判所の破産事件の新受件数は1,552件、小規模個人再生事件の新受件数は194件でした。
任意整理をした後に、失業や傷病、思わぬ出費などによって約束した支払いができなくなることもあります。いちど任意整理をしても、適切に対処しなければ法的措置を取られ、すぐに給与や預貯金を差し押さえられてしまう可能性もあるのです。
本コラムでは、任意整理をしたけど支払えなくなってしまった方に向けて、放置するリスクや、「どこに連絡すればよいのか」「支払いが見込めない場合はどう対処するのか」などについて、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。
1、任意整理後に支払いができず放置するリスク
任意整理後に支払いができず放置してしまうと、期限の利益を喪失して一括払いを求められるうえに、残金に対して高い遅延損害金(遅延利息)が発生してしまうおそれがあります。
また、電話や手紙、SMSによる支払いの催告があり、その後も支払えなければ訴訟や支払督促、給与などの差し押さえといった法的措置が取られる可能性もあるのです。
以下では、任意整理後に支払いができず放置してしまった場合の流れについて解説します。
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(1)1か月(1回目)の延滞なら催促の連絡がされるのが一般的
後述する和解や示談の内容にもよりますが、1か月(1回目)の延滞なら、債権者から電話やSMS、手紙などによって催促されることが一般的です。
和解・示談の内容や債権者の態度にもよりますが、1か月の延滞であれば、大きな問題に発展することはそれほど多くはないといえます、 -
(2)2か月(2回目)の延滞は期限の利益を喪失し一括払いを求められる
1か月ならまだしも、債権者に何の連絡もせず2か月(2回目)の延滞をすると、期限の利益を喪失し一括払いを求められる可能性があります。
期限の利益とは、仮に100万円を借りた場合でも、100万円を一括で返済するのではなく、毎月3万円ずつなど分割払いができるという状況のことです。
そして期限の利益を喪失してしまうと、分割払いが許されず、残りのお金を一括で支払わなければならなくなります。
任意整理では債権者との和解や示談をしますが、そのときに交わした和解書や示談書に、どのような場合に期限の利益が喪失するか定められているのが一般的です。
具体的には、過怠約款として次のように表示されていることがあります。第3条(過怠約款)
乙が弁済を2回怠ったときは、催告その他の手続きを要せず当然に期限の利益を失い、和解金の残元金に対して期限の利益喪失日の翌日から支払済まで年20%の遅延損害金を付加して、全額を直ちに支払うものとする。
具体的な内容は債権者によって異なりますが、2か月分の支払を怠ったときに期限の利益が喪失する定めとなっているのが一般的です。
また、毎月の支払額の2回分とされていたり、1回怠ったときとされていたりする場合もあります。
なお、「当然に期限の利益を失い」の「当然に」とは、債権者から期限の利益が喪失したという通知や一括払いの催告がなくても期限の利益が喪失するという意味です。
期限の利益を喪失すると、一括払いをするよう求める督促状が自宅に届く可能性もあります。 -
(3)高い遅延損害金(遅延利息)が発生する
前述の過怠約款の例のとおり、期限の利益喪失の翌日から、年20%など高い遅延損害金(遅延利息)が発生してしまいます。遅延損害金(遅延利息)の計算式は次のとおりです。
残元金×遅延損害金年率×期限の利益の喪失日の翌日から支払日までの日数÷365日
任意整理では利息がカット(免除)されている場合もありますが、遅延損害金(遅延利息)が発生するとなかなか元金が減らなくなってしまいます。
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(4)訴訟や支払督促など法的措置が取られる
期限の利益を喪失すると一括払いを求められるため、請求された支払いをすることは現実的ではありません。
そのまま放置した場合は、債権者が訴訟や支払督促などの法的措置を取ってくるおそれもあります。
訴訟と支払督促は、いずれも給与や預貯金などを差し押さえて債権を回収するために必要な、債務名義を取得するために行われる手続きです。
訴訟で「被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する令和5年4月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え」といった判決が確定すると、その確定判決書は債務名義となります。
支払督促も、債務者に送達された日から2週間以内に異議を申し立てなければ債務名義となってしまう裁判所を通じた手続きです。
督促に対して異議を申し立てると、訴訟に移行します。
なお、和解や示談の際に、強制執行認諾文言付きの公正証書で和解書や示談書を作成しているときは、訴訟や支払督促によらずとも債権者は差し押さえが可能です。
強制執行認諾文言付きの公正証書(執行証書)とは、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている公正証書です。(民事執行法第22条第5号)
2、任意整理後、支払いが遅れるときはどこに連絡する?
任意整理後、支払いが遅れてしまうときは、必ず債権者に連絡しなければなりません。
自分で債権者に支払いをしているときは債権者に直接連絡しますが、弁護士などが代理して返済をしているときは、弁護士に連絡するようにしましょう。
もし支払いが遅れてしまうにもかかわらず何の連絡もしなければ「債権者には任意に返済する意思が見られない」とされて、早期に法的措置が取られる可能性もあります。
弁護士が代理して返済している場合には、債権者に支払いを待ってもらえないかと弁護士が支払の猶予を交渉したり、任意整理のときに和解が成立するまでに積み立てておいた積立金(預り金)が余っている場合には支払いに充当したりすることができます。
3、今後も支払いが見込めない場合の対処法
任意整理で和解や示談をしたが今後の支払いが見込めないといった場合には、再和解のほか、個人再生や自己破産など他の債務整理を検討する必要があります。
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(1)再和解
再和解とは、任意整理で和解をした債権者と再度和解をすることです。具体的には、毎月の返済額の減額や返済スケジュールの再設定を債権者と交渉します。
しかし、そもそも約束どおりの支払いができなかったために和解をした過去があることを債権者も忘れていません。
そのため、2度も約束を破った債務者からの再度の和解の要求に対して、債権者が応じてくれない場合もあります。
他方、本当に支払えないのであれば、債権者にとっても自己破産されると残元金をほとんど回収できない状況となります。
そのため、やむを得ず再和解の要求に応じる債権者もいます。
もっとも、再和解に応じる場合でも毎月返済額の増額や返済期間の短縮、1回でも支払いに送れると期限の利益を喪失させるなど、厳しい条件を提示してくる場合もあります。 -
(2)個人再生
再和解をしても支払いの継続が困難な場合には、再和解ではなく個人再生や自己破産といった法的整理手続を検討しなければなりません。
個人再生とは、今後継続的に収入を得る見込みはある方が利用できる、裁判所を通じた法的整理手続です。
原則3年、最長5年の分割返済をすることを条件にして、返済総額を抑えることができます。
自己破産よりも手続きが難しい反面、免責不許可事由のような制限はなく、マイホームを維持することも可能です。 -
(3)自己破産
自己破産は、基本的にマイホームや自動車など一定以上の財産は処分される反面、税金や保険料、養育費など一部を除いてすべての債務の支払義務を免除(免責)してもらう法的整理手続です。
自己破産は個人再生のようにマイホームを残すことは困難である反面、債務額については5分の1程度に減額するのではなく、全額免除となることに大きな特徴があります。
4、任意整理後の支払いができない場合にやってはいけないこと
最後に、任意整理後に支払いができないときにやってはいけないことを解説します。
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(1)債権者や弁護士に連絡をせず無視する
債権者や弁護士に連絡をせず、無視をし続けることをしてはいけません。
無視をし続けた場合は期限の利益を喪失し一括払いを求められるだけでなく、遅延損害金(遅延利息)により返済しなければならない金額が増えるばかりです。
場合によっては、弁護士も辞任という形で今後の対応を断られてしまうこともあります。
最悪の事態に進んでしまわないよう、債権者や弁護士に事情を説明するなど、できる限りの努力をしましょう。 -
(2)新たに借入れをしようとする
債務整理中に、新たに借入れをしようとすることもやってはいけません。
債務整理をすると信用情報機関には事故情報が登録されており、借入れができる業者は闇金である可能性が高いためです。
闇金といっても実態はさまざまですが、一般的には貸金業者として登録を受けずに違法な高金利でお金を貸したり、違法な取立てを行ったりする者をいいます。
闇金からお金を借りても、返済ができないばかりではなく、取立てによって精神的な苦痛を受けて困り果てることも少なくありません。
仮に闇金でなくても、そもそも支払いができない状態で新たに借入れをするのは、自転車操業状態となるおそれが高くなってしまいます。
借入れを増やすよりも、家計を見直しつつ公的な支援を受け、弁護士に相談しながら着実に債務整理を進めたほうがいいでしょう。
5、まとめ
任意整理後に支払いができなくなったら、少しでも早く弁護士や債権者に事情を説明し、いつまでに支払えるかを伝えることが重要です。
支払いができず放置を続けてしまうと、期限の利益を喪失して一括払いを求められるほか、遅延損害金が膨らみ、法的措置を取られてしまう可能性があります。
また、支払いができないからといって、連絡をせず無視することはもちろん、新たに借入れをしようとするのは避けるべきです。
再和解の交渉をするか、個人再生や自己破産などの債務整理を検討するとよいでしょう。
任意整理など債務整理についてお困りの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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