労災における平均賃金とは? 休業補償の計算方法と手続きの流れ

2023年07月11日
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労災における平均賃金とは? 休業補償の計算方法と手続きの流れ

令和4年に広島労働局に報告された、労働災害による死傷者数は、8104件でした。

業務上の原因により、または通勤中にケガをした場合や病気にかかった場合には、労働基準監督署への請求によって労災保険給付を受給できます。このとき、労災保険給付の金額を左右するのが、直近の給与額を基準に計算する「平均賃金」です。適正な金額の労災保険給付を受給するためには、平均賃金を正確に計算することが大切です。

本コラムでは、労災(労働災害)における平均賃金の位置づけや、平均賃金が金額に影響する休業補償給付の計算方法や請求手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。

1、労災における「平均賃金」とは?

労働基準法第12条に定義される「平均賃金」は、労災保険給付のベースとなる「給付基礎日額」の計算に用いられるため、労災保険給付の金額に大きな影響を及ぼします。

  1. (1)労働基準法上の「平均賃金」とは

    「平均賃金」の基本的な計算方法は、以下のとおりです

    平均賃金 =(対象期間中の賃金総額-控除すべき賃金)÷対象期間の総日数

    対象期間:直前の賃金締切日以前3か月間。ただし、以下の期間を除く
    • 業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間
    • 産前産後休業期間
    • 使用者の責に帰すべき事由によって休業した期間
    • 育児休業期間、介護休業期間
    • 試用期間

    控除すべき賃金:以下の賃金
    • 臨時に支払われた賃金
    • 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金
    • 通貨以外のもので支払われた賃金で、一定の範囲に属しないもの


    ただし、以下のような例外もあります。

    ① 上記によって計算した賃金額が以下の金額を下回っている場合には、以下の金額が平均賃金となります。
    1. (a)日給制・時間給制・出来高払制その他の請負制の場合
      対象期間中の賃金総額÷対象期間中の実労働日数×60%
    2. (b)月給制・週給制その他一定の期間により賃金が定められる場合
      対象期間中に欠勤しなかった場合に受けるべき賃金総額÷対象期間中の総日数

    ② 雇い入れ後3か月に満たない労働者については、雇い入れ後の期間を対象期間として平均賃金を計算します。

    ③ 日雇い労働者については、従事する事業・職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とします。
    参考:「昭和三十八年労働省告示第五十二号(労働基準法第十二条第七項の規定に基づく日日雇い入れられる者の平均賃金)」(厚生労働省)

    ④ 上記の方法によって算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによります。
    参考:「昭和二十四年労働省告示第五号(労働基準法第十二条第一項乃至第六項の規定によって算定し得ない場合の平均賃金)」(厚生労働省)
  2. (2)平均賃金≒給付基礎日額|ただし厳密には異なる

    労災保険給付の中には、「給付基礎日額」をベースに金額が計算されるものがあります。

    原則として、給付基礎日額は労働基準法の平均賃金と一致します。
    したがって、通常の場合には、被災労働者の平均賃金が高ければ高いほど該当する労災保険給付の金額は高額になります

    ただし厳密には、以下の二点の理由により、平均賃金と給付基礎日額が一致しない場合もあります。

    ① スライド制
    労災年金については、被災当時の賃金水準と支給時点の賃金水準を平準化するため、10%以上の変動が生じた際に、スライド率を適用して給付基礎日額が調整されます。

    ② 年齢階層別最低・最高限度額
    労災年金と、療養開始後1年6か月経過後に支給される休業補償給付については、被災時の年齢による不均衡の是正等を図るため、給付基礎日額について年齢階層別の最低限度額・最高限度額が適用されます。
  3. (3)給付基礎日額をベースとする労災保険給付の種類

    給付基礎日額を基準にして金額が計算される労災保険給付は、以下のとおりです。

    ① 休業補償給付、傷病補償年金
    労災によるケガや病気の療養・リハビリのために仕事を休んだ場合、休業4日目以降の賃金の80%が補償されます。
    傷病等級第1級から第3級に該当する障害が1年6か月以上治らない場合は、労働基準監督署長の職権によって傷病補償年金に切り替えられます。

    ② 障害補償給付
    被災労働者に後遺症が残った場合に、労働能力の喪失に伴う逸失利益の補償として、認定される障害等級に応じて支給されます。

    ③ 遺族補償給付
    被災労働者が亡くなった場合に、遺族に対する生活保障として支給されます。

2、休業補償給付の計算方法

労災によるケガや病気が原因で仕事を休んだ場合には、労働基準監督署に対して休業補償給付を請求できます

休業補償給付の金額の計算方法は、以下のとおりです。

  1. (1)給付基礎日額を求める

    前述の要領にしたがって、休業補償給付のベースとなる給付基礎日額を計算します。

    (例)
    • 賃金締切日は毎月末日
    • 2023年4月15日に被災
    • 2023年1月~3月の賃金総額は90万円

    平均賃金
    =90万円÷90日
    =1万円
  2. (2)休業4日目以降の休業日数を求める

    休業補償給付の対象となるのは、休業4日目以降です。
    途中で復職しても日数のカウントが途切れることはなく、トータルでの休業日数が基準となります

    (例)
    労災によるケガの療養のために仕事を15日間休み、復職した後さらに10日間休んだ
    →休業日数は計25日間、したがって休業補償給付の対象となるのは22日間
  3. (3)休業補償給付の金額を計算する

    以下の式にしたがって、休業補償給付の金額を計算します。

    休業補償給付=給付基礎日額×休業4日目以降の休業日数×80%
    ※内訳:休業補償給付(休業給付)60%、休業特別支援金20%

    (例)
    • 給付基礎日額は1万円
    • 休業日数は25日間(休業4日目以降の休業日数は22日間)

    休業補償給付
    =1万円×22日間×80%
    =17万6000円

3、休業補償給付の請求手続き

休業補償給付は請求するためには、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に対して、以下の様式による請求書を提出しましょう。

① 業務災害の場合
休業補償給付支給請求書 複数事業労働者休業給付支給請求書 業務災害用・複数業務要因災害用(様式第8号)

② 通勤災害の場合
休業給付支給請求書 通勤災害用(様式第16号の6)


請求書の様式は労働基準監督署の窓口で交付を受けられるほか、厚生労働省ウェブサイトからもダウンロード可能です。
「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省)

4、労災保険によって補償されない休業損害は、会社に損害賠償請求を

労災保険の休業補償給付は、休業4日目以降の賃金の80%を補償するものに過ぎません。また、その他の労災保険給付によっても、精神的損害に対応する慰謝料などは補償の対象外となるのです。

労災保険給付によって補償されない損害については、会社に対して損害賠償を請求することを検討しましょう

  1. (1)会社に損害賠償を請求できるケース

    会社の安全配慮義務違反または使用者責任が認められる場合には、会社に労災の損害賠償を請求できます

    ① 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
    労働者が生命・身体等の安全を確保しながら働けるように必要な配慮をする義務を会社が怠り、その結果として労災が発生した場合には、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負います。
    (例)
    • 工場機械の整備不良が原因で労災事故が発生した場合
    • 工事現場における危険箇所について、会社が周知を怠った結果として労災事故が発生した場合

    ② 使用者責任(民法第715条第1項)
    他の従業員の故意・過失による行為が原因で労災が発生した場合、会社も使用者責任に基づく損害賠償責任を負います。
    (例)
    • 上司のパワハラが原因でうつ病にかかった場合
    • 同僚の機械操作のミスが原因で労災事故が発生した場合
  2. (2)会社に損害賠償を請求できないケース

    会社の安全配慮義務違反または使用者責任が認められない場合には、会社に対して損害賠償を請求することはできません。

    (例)
    • 通勤中の交通事故によってケガをした場合
    • 被災労働者自身の過失のみが原因で労災事故が発生した場合


    これらのようなケースでは、労災保険給付による補償のみを受け取れます

  3. (3)会社に対する損害賠償請求は弁護士にご相談を

    会社に対して労災の損害賠償を請求する際には、弁護士に依頼することをおすすめします。
    弁護士は、会社の責任を裏付ける証拠を確保したり、法的な根拠に基づいた主張を行ったりすることで、被災された労働者が適正な金額の損害賠償を受けられるようにサポートいたします。
    また、弁護士に手続きを任せることで、労働者ご自身はケガや病気の療養に専念しながら損害賠償請求の準備を進めることが可能になるのです

    また、弁護士であれば、そもそも会社に対して損害賠償を請求できる事情があるかについても、法律の専門知識に基づいて適切に判断することができます。
    損害賠償が請求できるかどうかの判断がつかずに迷われている方も、まずは弁護士にご相談ください

5、まとめ

休業補償給付をはじめとする労災保険給付の金額は、平均賃金を基準に計算する必要があります。
適正な金額の労災保険給付を受けるためには、まずは平均賃金を正確に算出することが大切です

また、労災保険給付によって補償されない損害については、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
弁護士であれば、ご自身の状況が損害賠償を請求できるケースか否かについて、適切に判断することができます
また、損害賠償請求の手続きを弁護士に任せることで、ご自身は療養に専念しながら、法律の専門知識や経験に基づいて適正な金額の損害賠償を会社に対して請求することが可能になります。

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