離婚時、子どもを祖父母が育てることは可能? 親権との関係性
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広島県福山市における2021年の婚姻件数は3863件、離婚件数は1044件でした。
夫婦が離婚する際に大きな問題になりやすいのが、子どもの親権です。夫婦のどちらも親権の獲得を希望している場合には、離婚の合意に至るのが難しくなってしまうでしょう。
また、自分が仕事などの関係で十分に子どもを養育できない場合には、親権争いにおいて不利な立場に立たされてしまいます。その際には、「祖父母が子どもを育てる」ことを主張すれば、親権争いにおいて有利な事情となる可能性があるのです。
本コラムでは、子育てに協力的な祖父母の存在が親権争いにどのような影響を与えるのかについて、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。
1、祖父母は親権者になれるのか?
まずは、親権に関する民法の基本的なルールを解説します。
大前提として、親権者になれるのは父母のみであり、祖父母の立場で親権者になることはできません。
ただし、子どもと祖父母が養子縁組をして「父母」になれば、祖父母でも親権を得ることができます。
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(1)親権者は父母のみ|祖父母は親権者になれない
18歳未満の未成年者は、父母の親権に服します(民法第818条第1項)。
親権者は、子どもについて以下のような権利を有し、同時に義務を負います。(a)監護・教育(民法第820条)
子どもの利益のために生活の面倒を見て、さらに教育を施す権利を有し、義務を負います。
(b)居所の指定(民法第822条)
子どもが住む場所を定める権利を有します。子どもは、親権者が指定した場所に居所を定めなければなりません。
(c)職業の許可(民法第823条)
子どもが営む職業につき、許可を与える権利を有します。子どもは親権者の許可を得なければ、職業を営むことができません。
(d)財産の管理・代表(民法第824条)
子どもの財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為を代表する権利を有します(法定代理権)。
※懲戒権の規定は、2022年12月16日に施行された改正民法により削除されました。
子どもの親権者となるのは「父母」であり、それ以外の者は親権者になることができません。
したがって、祖父母の立場で孫の親権を得ることは認められないのです。 -
(2)養子縁組をすれば「父母」になる|祖父母でも親権者になれる
子どもが養子として養子縁組をした場合には、養親の親権に服することになります(民法第818条第2項)。
祖父母が孫と養子縁組をすることも、法律上認められています。したがって、祖父母が孫と養子縁組をした場合には、祖父母が孫の親権者となります。
なお、子連れの再婚で再婚相手が養子縁組をした場合のように、養親と実親が婚姻している場合には、養親と実親の共同親権となります(同条第3項)。
これに対して、養親と実親が婚姻していない場合には、養親の単独親権となり、実親は親権を失います。
養子縁組によって祖父母が親権者となるケースでは、祖父母のみが親権者となり、実親は親権を失うことになるのです。
2、祖父母の養育サポートを主張すれば、親権を得られるか?
子どもを持つ夫婦が離婚する際には、どちらが子どもの親権を得るかについて激しく争われることが多々あります。
親権争いにおいて、「自分自身は仕事などのために子どもの養育に時間を割けないとしても、祖父母のサポートは受けられるから親権が欲しい」といった主張をされる場合があります。
たしかに、「祖父母のサポートを受けられる」ことは、親権争いにおいてプラスに働く面があります。
しかし「祖父母任せ」の印象を与えてしまうと、かえってマイナスになりかねない点に注意が必要となるのです。
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(1)親権者は子どもの利益の観点から決定される
大前提として、離婚後の子供の親権者は、子どもの利益を最も優先的に考慮した上で決定する必要があります(民法第766条第1項、第771条)。
つまり、父母それぞれの「親権を欲しい」と思う気持ちの強さなどではなく、あくまでも「どちらの親の下で育つのが子供自身にとってよいか」という客観的な観点から、親権者を決定することになるのです。
したがって、離婚調停や離婚訴訟によって親権を争う場合には、「自分が親権者にふさわしい」という理由について、客観的な事実と証拠に基づいて裁判所にアピールする必要があります。 -
(2)祖父母の養育サポートはプラス要素の一つ
祖父母が育児について協力的であり、いつでもサポートを受けられることは、子どもの養育の観点からプラス要素であることは間違いありません。
仕事が忙しくなった場合などにも子どもを一人にせずに済み、情操教育や安全性などの観点からメリットがあるためです。
したがって、離婚調停や離婚訴訟で親権を争う際には、育児について祖父母のサポートを受けられるという事実があるなら、そのことを家庭裁判所に必ず伝えましょう。 -
(3)「祖父母任せ」はマイナスの印象になりかねない
離婚後に子どもの親権を持つのはあくまでも父母のいずれかであり、祖父母ではありません。
親権者である父母は、前述のとおりさまざまな法律上の権利を有しており、それらの権利を適切に行使することが求められます。
家庭裁判所としても、子どもの親権者を決定する際には「父母のどちらが責任を持って子どもを育てていけるか」という点に注目します。
そのため、祖父母の協力を得られること自体はプラスであるものの、「祖父母任せ」という印象を与えてしまうと、責任感がないと判断されて不利になってしまう可能性があるのです。
離婚調停や離婚訴訟では、祖父母によるサポートをアピールしながらも「自分自身が子どもを育てていく」という意思を示して、具体的にどのような取り組みを行っていくかについて適切に主張することが重要になります。 -
(4)親権者決定の際に重要となる4つの判断基準
「祖父母のサポートが得られる」というだけでは、離婚後に子どもの親権を得ることは難しいです。
親権者の決定において、家庭裁判所は以下の4つの原則を重視します。
子どもの親権が欲しい場合には、各原則をふまえたうえで、自身にとって有利な事情を具体的に主張することが大切です。(a)継続性の原則
「養育環境をできる限り変えずに済む側を、親権者とするのが望ましい」という考え方です。
最も重要なのは「これまで育児に関与してきた時間の長さ」です。
より長い時間を子どもと一緒に過ごした側の親は、親権争いにおいて有利となります。
また、「引っ越しや転校の必要がない」といった事情も、継続性の原則の観点からプラスに働きます。
(b)兄弟姉妹不分離の原則
「子どもが複数いる場合には、すべての子どもの親権者を同じとすることが望ましい」という考え方です。
数人いる子どもの一部について、他の原則(判断基準)に基づく有利な事情がある場合には、その事情を強調して主張することで、すべての子どもの親権を得られる可能性があります。
(c)母親優先の原則
「幼少期の子どもにとっては母性が重要であるため、母親を親権者とすることが望ましい」という考え方です。
自身が母親であり、子どもが未就学児など幼少である場合には、母親優先の原則が有利に働く可能性があります。
ただし、男女同権が浸透した現代では、母親優先の原則の重要性は後退しています。
したがって、その他の原則(判断基準)のほうが優先されると考えられるでしょう。
(d)子どもの意思尊重の原則
「子どもがある程度以上の年齢に達している場合は、子どもの意思を尊重して親権者を決定すべき」という考え方です。
子どもの発達度合いにもよりますが、おおむね10歳前後の場合には、子どもの意思が一定程度尊重されることが多いです。また、子どもの年齢が上がれば上がるほど、その傾向がさらに強くなります。
子どもの気持ちを自身に向けさせるためには、やはり、子どもと十分な時間を過ごすことが大切です。
離婚後に親権を獲得したいと希望するなら、離婚交渉の前から積極的に子どもとの交流を深めましょう。
3、親権・養育費などの問題は弁護士に相談を
子どもがいる状態で配偶者と離婚する際には、親権や養育費など、子どもに関する離婚条件についてもめてしまいがちです。
夫婦が直接話し合ってもうまくいかず、離婚がなかなか成立しないケースも多々あります。
そんなときには、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、法律や裁判例をふまえて検討を行い、適正な離婚条件の内容・水準などを具体的にアドバイスすることができます。また、実際の離婚協議・離婚調停・離婚訴訟の手続きについても、弁護士に一任することができます。
配偶者との離婚を検討されている方や、離婚後に子どもの親権を獲得したい方は、お早めに弁護士までご相談ください。
4、まとめ
離婚時の親権争いにおいて、祖父母による養育のサポートを受けられることはプラスに働きます。
ただし、「祖父母任せ」で無責任だと判断されてしまうと、かえって親権を認めない方向に働いてしまうおそれもあるため、注意して主張する必要があります。
配偶者と離婚する際には、さまざまな離婚条件を取り決めなければなりません。
対立が深刻化して離婚がなかなか成立しないケースも多いため、弁護士に相談することをおすすめします。
離婚についてお悩みの方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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