中小企業も残業時間は月60時間まで? 難しいときはどうすべきか
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2022年度に広島県内の労働基準監督署が監督指導を行った692事業場のうち、違法な時間外労働があったものは318事業場でした。
月60時間を超える時間外労働をした労働者には、超過部分につき、通常の賃金に対して50%以上の割増賃金を支払う必要があります。2023年4月以降は、中小企業においても50%以上の割増賃金の支払いが必要となった点に注意しましょう。
本記事では、中小企業における残業時間の規制について、時間外労働が月60時間を超えた場合の取り扱いを中心に、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。
出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表します」(広島労働局)
1、2023年4月施行|中小企業でも月60時間超の時間外労働の割増賃金は50%以上に
2023年4月1日より、労働基準法に基づく割増賃金引き上げが、中小企業に対しても全面的に適用されるようになりました。
労働基準法第37条第1項では、労働者が1か月当たり60時間を超える時間外労働をした場合に、超過分につき通常の賃金に対して50%以上の割増賃金を支払うことを使用者に義務付けています。
上記の規定は、2010年の労働基準法改正によって導入されたものです。大企業においては、2010年から同規定が適用されていました。
その一方で、中小企業に対しては同規定の適用が猶予され、月60時間以下の部分と同じく、月60時間を超える時間外労働に対しても、通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を支払えば足りるとされていました。
しかし、労働者の待遇改善を目的とする働き方改革関連法により、2023年4月1日以降は上記の猶予措置が撤廃されました。現在では中小企業においても、月60時間超の時間帯労働については、通常の賃金に対して50%以上の割増賃金を支払う必要があります。
2、時間外労働が月60時間を超えたらどうなるのか?
労働者に対して月60時間を超える時間外労働を命じることができるのは、特別条項付き36協定、いわゆる36(サブロク)協定を締結している場合のみです。
また、月60時間を超える時間外労働を指示できる場合には、割増賃金に関する猶予措置が撤廃されたことを踏まえて、労働者に支払う残業代を正しく計算する必要があります。
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(1)特別条項付き36協定の締結が必要|怠った場合は刑事罰の対象に
労働者の労働時間は、原則として「1日当たり8時間・1週間当たり40時間」が上限とされています(労働基準法第32条)。これを「法定労働時間」といいます。
法定労働時間を超える労働は「時間外労働」に当たります。会社が労働者に対して時間外労働を指示するためには、労働組合または労働者の過半数代表者との間で労使協定(36協定)を締結しなければなりません。また、時間外労働の時間数などについては、36協定に定められたルールを順守する必要があります(同法第36条第1項)。
36協定において定めることができる時間外労働の上限は、原則として月45時間までです(同条第3項、第4項)。ただし、36協定において「特別条項」を定め、特別条項に定められた条件に従えば、月45時間を超える時間外労働の指示が認められることがあります(同条第5項)。
特別条項には、以下の事項を定めなければなりません。① 1か月における時間外労働と休日労働の合計時間数
→100時間未満の範囲で定めます。
② 1年における時間外労働の時間数
→720時間以内の範囲で定めます。
③ 限度時間(月45時間まで)の超過が認められる回数
→6回(6か月)以内の範囲で定めます。
④ 限度時間の超過が認められる場合
→突発的な仕様変更への対応、大規模なトラブルやクレームへの対応、繁忙期への対応など、具体的に記載します。
⑤ 限度時間を超過した労働者に対する健康福祉確保措置
→医師による面接指導、勤務間インターバル、時短対策会議、深夜労働の回数制限、代替休暇制度、健康診断、相談窓口の設置など、長時間労働をする労働者の健康・福祉を確保するための措置を具体的に定めます。
⑥ 限度時間を超過した労働に係る割増賃金率
→月60時間以内の部分については通常の賃金に対して25%以上、月60時間を超える部分については通常の賃金に対して50%以上の割増賃金率を定めます。
月60時間超の時間外労働を指示する場合は、必然的に特別条項付き36協定を締結し、特別条項の定めに従わなければなりません。違反した場合は、労働基準監督署による行政指導や刑事罰の対象になるので注意が必要です。
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(2)月60時間を超える時間外労働の残業代の計算方法
月60時間を超える時間外労働をした労働者に対して支払う残業代の金額は、以下の式によって計算します。
残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数
1時間当たりの基礎賃金
=1か月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間
<総賃金から除外される手当>- 時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当
- 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
- 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
<月平均所定労働時間の求め方>
月平均所定労働時間=年間所定労働時間÷12か月
※所定労働時間:労働契約や就業規則で定められた労働時間
(例)- 1か月の総賃金(上記の手当を除く)が34万円
- 月平均所定労働時間が173.時間
- 時間外労働のうち、月60時間以内の部分の割増率は25%、月60時間を超える部分の割増率は50%
- 月70時間の時間外労働をした
1時間当たりの基礎賃金
=34万円÷173.時間
=2000円
残業代
=2000円×(60時間×1.25+10時間×1.5)
=18万円
3、長時間残業について労働者とトラブルになりそうな場合の対処法
長時間にわたる残業について労働者とトラブルになりそうな場合は、以下の対応・手続きによって解決を図りましょう。
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(1)業務の効率化を図り、労働時間を削減する
長時間にわたる残業が常態化している場合、労災のリスクが高い状態が続くほか、今後も労働者とのトラブルの発生が懸念されます。
会社の業務の内容を整理し、無駄な業務は廃止するなどして効率化を図り、早急に労働時間の削減へと着手しましょう。 -
(2)残業を許可制にして、残業時間を抑制する
残業時間が多くなってしまうのは、労働者の判断によって不必要な残業が行われていることが原因の場合もあります。
無駄な残業を減らすためには、残業を許可制にすることが解決策の一つです。会社側で残業時間をコントロールしやすくなるメリットもあります。
ただし、単に残業を許可制にするだけではなく、併せて業務の効率化や適切な業務配分を行い、労働者が無理なく働けるような配慮を行いましょう。 -
(3)労働者との間で和解交渉を行う
長時間残業について、労働者との具体的なトラブル(未払い残業代請求や労災の損害賠償請求など)に発展してしまった場合は、極力和解交渉を通じて解決を図りましょう。
和解交渉が成功すれば、法的手続きに発展する場合に比べて、コストを抑えた早期の解決が期待できます。
労働者との和解交渉は、弁護士に依頼するのが安心です。弁護士は十分な法的検討を行った上で、会社として受け入れられる内容の和解をスムーズに成立させられるようにサポートいたします。 -
(4)労働審判や訴訟で解決を図る
労働者との和解交渉がうまくまとまらない場合は、労働審判や訴訟などの法的手続きを通じて解決を図りましょう。
労働審判や訴訟では、判断権者である労働審判委員会または裁判所に対して、会社側の主張を説得的に伝えることが大切です。
そのためには、弁護士に代理人としての対応をご依頼ください。説得的な主張構成の組み立て・証拠の収集・期日における対応など、労働審判や訴訟において必要な対応を全面的に代行いたします。
4、残業に関する労働者とのトラブルは弁護士に相談を
残業に関して労働者との間でトラブルになってしまった場合は、弁護士への相談をおすすめします。弁護士は実際の残業の状況を踏まえて、会社として講ずべき改善策や、労働者の請求への対応について具体的にアドバイスします。
また、残業に関する労働者とのトラブルを予防するためには、日頃から弁護士と顧問契約を締結するのが安心です。労働基準法のルールを踏まえた残業管理を、トラブル予防の観点からどのように行うべきかについていつでも相談できます。
ベリーベスト法律事務所では、月額3980円からの顧問弁護士プランのほか、契約書のチェック・社内規程の整備・業法への対応などについても、幅広くご相談いただけます。
人事・労務管理に関するトラブル対応やその予防策についてお悩みの企業は、まずは当事務所までお気軽にご相談ください。
5、まとめ
2023年4月1日以降、月60時間超の時間外労働に対しては、中小企業でも通常の賃金に対して50%以上の割増賃金を支払わなければなりません。弁護士のアドバイスを受けながら、正しく残業代を計算した上で支払いましょう。
ベリーベスト法律事務所 福山オフィスでは、人事・労務管理に関するご相談を随時受け付けております。残業に関するトラブル対応やトラブルの予防策については、ベリーベスト法律事務所にご相談いただくのが安心です。
ニーズに応じてご利用いただける顧問弁護士サービスもご用意しておりますので、お気軽にベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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