警察の取り調べで作成される調書とは? 聴取される内容や調書の種類を解説

2021年07月27日
  • その他
  • 警察
  • 調書
警察の取り調べで作成される調書とは? 聴取される内容や調書の種類を解説

福山市を管轄区域にもつ福山東・福山西・福山北の3警察署では、令和2年中に合計で2119件の刑法犯が認知され、1009件が検挙に至りました。3署の検挙率の平均は47.6%で、広島県全体の平均52.1%と比較するとわずかに下回るものの、およそ半数の事件は検挙されているという状況がうかがえます。

警察が被疑者を検挙するにあたって欠かせない捜査活動となるのが「取り調べ」です。刑事事件の加害者として容疑をかけられると、犯罪事実について厳しい取り調べを受けることになります。取り調べにおいて述べた内容は「供述調書」という書類にまとめられて、検察官が起訴・不起訴を判断する材料となるうえに、刑事裁判においても重要な証拠として扱われます。

このコラムでは、警察による取り調べの流れや聴取される内容、警察官が作成する調書の種類、取り調べや供述調書の録取を受ける際の注意点などを、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。

1、警察の「取り調べ」で聴取される内容

刑事ドラマでは、刑事が被疑者に対して怒鳴り声を上げたり、被疑者の胸ぐらをつかんだりしているようなシーンが描かれることがあります。そのため、「取り調べはとても怖いものだ」という印象を持っている方も少なくないでしょう。しかし、実際の取り調べでは、事実を突き止めることだけに注目して厳しい追及を受けるばかりではありません

取り調べでは、どのようなことが聴取されるのか、その内容を説明します。

  1. (1)事件の詳しい内容を聴取される

    刑事事件の被疑者として取り調べを受ける際は、事件の詳しい内容を聴取されることになります。
    犯行の認否だけでなく、犯行に至った動機や経緯、手口の内容、事件後の逃走経路や犯行の用に供した凶器などの処分方法など、前後の状況についても詳しく尋ねられることになるでしょう。

    被疑者としての取り調べでは「被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則」が適用されます。

    身体への接触や暴力など有形力の行使、不安や困惑をおぼえさせる言動、一定の姿勢の強要、便宜供与の約束、尊厳を害する言動などがあれば「監督対象行為」となります。
    厳しい追及があったとしても、監督対象行為にあたる取り調べは監督官によって強制的に中止されるので、乱暴な取り調べを受けるおそれは低いでしょう

  2. (2)被疑者自身の身上についても聴取される

    被疑者としての取り調べが進むなかで、事件とは直接関係がないように思える「身上」も聴取されます。
    ここでいう身上とは、被疑者の生い立ち、家族関係、位記・勲章、前科前歴、学歴・職歴、趣味・嗜好などを意味します。

    一見、事件とは関係のない項目が多いと思われるでしょうが、検察官や裁判官は被疑者のことを詳しく知らないまま捜査書類を目にするため、捜査の初期段階から被疑者と接する警察が被疑者の素性を明らかにするのです。

    また、身上の取り調べにおいては「被害者との関係」も聴取されます。
    これは、窃盗・詐欺・横領などの一部の犯罪について、親族間では罪としない「親族相盗例」の規定があるためです。

2、警察官が作成する「調書」の種類と内容

警察による取り調べでは、被疑者の供述を取りまとめた「調書」が作成されます
警察官が作成する調書の種類や内容を確認してみましょう。

  1. (1)弁解録取書

    刑事事件の被疑者として逮捕された場合は、警察署に連行されるとただちに「弁解録取」がおこなわれます
    ここで作成される調書が「弁解録取書」です。

    弁解録取とは、逮捕の理由となった事実の要旨と弁護士を選任できる権利を教示し、被疑者に弁解の機会を与える手続きを指します。刑事訴訟法第203条1項の規定に基づいて実施されます。

    あくまでも「弁解の機会」であって犯罪事実の核心についての取り調べではないため、弁解録取書に記載されるのは「たしかに犯行におよんだことに間違いはない」あるいは「私は犯人ではない」といった事実の認否が中心です。

    なお、弁解録取書が作成されるのは、被疑者の逮捕を伴う身柄事件のときに限られます。
    逮捕を伴わず、在宅のままで捜査を進める在宅事件の場合は、弁解録取書は作成されません。

  2. (2)供述調書(甲)

    強制・任意を問わず、被疑者の供述を録取して作成するのが「供述調書」です。
    供述調書には(甲)と(乙)の2種類があり、被疑者の取り調べでは(甲)が、被害者など参考人の取り調べでは(乙)が使用されます。

    被疑者の取り調べでは、犯罪事実に関する調書と、身上に関する調書の2種類が作成されます。

    犯罪事実に関する調書は、事件の内容によって事実・動機・事件後の行動などを細切れにして録取することが多く、ひとつの事件で数部の調書が作成されるのが一般的です。

    身上に関する調書は「身上調書」や「身上経歴調書」などと呼ばれ、1部のみ作成されます。

    事実に関する調書も身上に関する調書も、どちらも同じ「供述調書(甲)」が使用され、いずれも被疑者の供述を聴き取って警察官がまとめて記述します。

    作成が終わると、取調官が全文を読み上げたうえで、さらに被疑者自身にも調書を閲覧させ、内容に間違いがないことを確認して、被疑者の署名・押印を求めます

    被疑者の確認と署名・押印ののち、作成者である警察官が日付・職名・氏名を記載して押印し、全ページに割り印をすることで、供述調書の完成です。

    完成した供述調書は公文書となるため、作成者の警察官であっても勝手に修正・改ざんすることは認められません。

3、取り調べと供述調書の録取を受ける際に気をつけるべきポイント

刑事事件の被疑者として取り調べや供述調書の録取を受ける際には、次のような点に気をつけるとよいでしょう

  1. (1)事実に反する内容を認めない

    警察は、被疑者として犯罪の容疑をかけている以上、犯行を認めさせて、事実に関する事項をすべて供述させようと考えています。
    たとえ無実であり「やっていない」「身に覚えがない」と供述しても、否認としてさらに厳しい取り調べを受けることになるでしょう。

    取り調べの際に誤った事実について追及された場合は、はっきりと否認するべきです
    たとえ厳しい追及を受ける事態になったとしても、事実に反する内容を認めてはいけません。

  2. (2)あいまいな内容の調書は訂正を求める

    供述調書は、被疑者の供述内容を聴き取ったうえで警察官がまとめて作成する書類です。
    被疑者が供述したとおりの文言を記録するものではない「警察官の意図が含まれた作文」なので、はっきりと事実を認めてはいなくても「~かもしれない」といったあいまいな内容にされてしまうおそれがあります。

    あいまいな内容の調書は、読み聞かせや閲覧の際に必ず訂正を求めなければなりません
    表現によっては「暗に認めている」と評価されてしまい、被疑者にとって不利な供述調書になることもあるのです。

  3. (3)内容に納得できない調書には署名しない

    ひとたび被疑者が署名・押印した供述調書は、修正や破棄が認められません。
    作成された調書を訂正するには新たに別の調書を作成して訂正を述べる必要があります。
    しかし、捜査機関にとって不利な訂正のためでは別の調書作成に応じてくれないおそれがあるうえに、訂正に応じてくれたとしても供述が二転三転するようでは信用性に欠けてしまいます。

    読み聞かせ・閲覧の際に納得できない内容があれば、必ずその場で訂正を求めるべきですが、取調官が訂正に応じない場合は、署名・押印を拒否しましょう

4、逮捕された場合は弁護士のアドバイスが重要になる

刑事事件の被疑者として逮捕されてしまった場合は、ただちに弁護士に相談してアドバイスを求めましょう。
逮捕されず、任意で取り調べを受ける場合でも、やはり弁護士のアドバイスは重要です

  1. (1)供述すべき内容を確認できる

    取り調べにおいて不用意な供述をしてしまうと、一方的に不利な展開を招いてしまうおそれがあります。

    一方で、進んで供述すべき事項もあります
    たとえば、首謀者や共犯者が存在する事件では、背後関係のすべてを供述すれば従属的な立場であったことを証明できる可能性もあります。

    弁護士に相談して、どのような内容を供述すべきか、あるいはどのような供述を避けるべきかといったアドバイスが得られるでしょう。
    供述調書が録取されるタイミングでは、どのような内容が盛り込まれているべきなのか、どのような内容であれば署名すべきではないのかのアドバイスも得られます。

  2. (2)不当な取り調べに対して抗議できる

    取り調べの際に暴行や脅迫などがあれば監督対象行為となります。
    弁護士にサポートを求めていれば、不当な取り調べについて捜査機関に抗議し、改善を求めることが可能です

    監督対象行為があればただちに不当な取り調べとなるというわけではありませんが、供述の任意性が争点となり、供述調書の証拠能力が否定される可能性もあるでしょう。
    無実であるのに容疑をかけられている場合は、とくに有効な対策です。

  3. (3)早期釈放・処分の軽減が期待できる

    逮捕されている事件では、逮捕・勾留によって最長23日間にわたる身柄拘束を受けます。
    弁護士にサポートを求めれば、弁護士が捜査機関に対して逃亡・証拠隠滅のおそれがないことを主張できるので、早期釈放が実現する可能性が高まるでしょう

    また、弁護士は被疑者の弁護人として被害者との示談交渉を進めることも可能です。
    被害者との示談が成立していれば、検察官が不起訴処分を下す可能性が高まるので、早期釈放や処分の軽減も期待できます。

5、まとめ

刑事事件の被疑者として容疑をかけられると、警察による取り調べを受けることになります。閉鎖的な取調室で質問を受けていると、プレッシャーに負けて事実とは異なる内容でも認めてしまったり、自分自身にとって不利な内容を供述してしまったりするおそれがあります。

取り調べの内容は供述調書に録取されますが、ひとたび内容を認めて署名・押印した調書の内容を覆すのは困難です。供述調書が録取される際には、事実に反する内容になっていないかを慎重にチェックしなければなりません。

警察による取り調べや供述調書の録取について不安を感じているなら、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスにご相談ください。取り調べに際して気をつけるべきポイントや供述調書の録取への対応について、事件の内容に応じた詳しいアドバイスを提供します。
すでに警察に逮捕されている場合は、社会生活への悪影響を最小限に抑えるためにも早期釈放に向けた弁護活動が必要なので、ただちに弁護士までご一報ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています