無言電話やいたずら電話は犯罪? 適用される罪名や罰則、逮捕の事例

2021年08月03日
  • その他
  • 無言電話
無言電話やいたずら電話は犯罪? 適用される罪名や罰則、逮捕の事例

無言電話やいたずら電話は、その程度や目的によっては犯罪として厳しく罰せられます。平成30年4月には、広島市内の病院に対して無言電話や着信音を鳴らしてすぐに切る、いわゆる「ワン切り」などを約3か月間・およそ610回も繰り返した容疑で、市職員の男が逮捕されました。無言電話のうち50回は事務員が受話器を取って応答しているため、被害を受けた病院は通常の業務に大きな支障をきたしたようです。

無言電話やいたずら電話を繰り返すとどのような罪に問われるのでしょうか?

本コラムでは無言電話やいたずら電話で問われる罪や刑罰、逮捕後の刑事手続きの流れなどをベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。

1、無言電話・いたずら電話で問われる罪

「軽い気晴らし」「ちょっとした遊び」といったつもりで無言電話やいたずら電話をした場合でも、その程度や目的、内容などによっては犯罪になります。無言電話・いたずら電話で問われるおそれのある罪を挙げていきましょう

  1. (1)偽計業務妨害罪

    無言電話・いたずら電話を罰するもっとも代表的な犯罪が「偽計業務妨害罪」です

    偽計業務妨害罪は刑法第233条に規定されている犯罪で「偽計」を用いて他人の業務を妨害した場合に成立します。

    ここでいう「偽計」とは、他人をだます、誘惑するなどの方法を指し、実際に業務を妨害した場合はもちろん、業務を妨害したという実害を与えていなくてもその危険さえあれば成立は妨げられません。

    冒頭で紹介した事例のように病院などの施設に対して何度も無言電話をかける、飲食店にうその出前注文の電話をかけるといったケースには、偽計業務妨害罪が適用されるでしょう。

    偽計業務妨害罪の罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
    気晴らしやうっぷん晴らし、いたずらのつもりではたらいた行為に対する刑罰としては、決して軽くはありません。

  2. (2)脅迫罪

    いたずら電話の内容が相手に危害を加える内容であれば、刑法第222条の「脅迫罪」に問われます

    脅迫罪は、相手または相手の親族を対象に、生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加える旨を告知することで成立します。

    相手に危害を加える旨を告知することを「害悪の告知」といい、実際にその内容を実行する意思があるかどうかは問題になりません。
    害悪の告知を受けた相手が畏怖すれば脅迫にあたるため、たとえば名前を名乗らずに「家に火をつけてやる」「なにもかもめちゃくちゃにしてやる」と脅せば脅迫罪は成立します。

    脅迫罪の罰則は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。
    本当に危害を加えるつもりがなくても罪となるため、思いがけず重い刑罰が科せられてしまう危険があります。

  3. (3)傷害罪

    無言電話・いたずら電話によって相手に精神的な障害を負わせた場合は、刑法第204条の「傷害罪」が成立します

    傷害罪は、不正な有形力の行使によって相手の生理的機能を害した場合に成立する犯罪で、相手に殴る・蹴るなどの暴行を加えて怪我をさせたなどのケースに適用されるのが典型例です。

    ただし、無言電話・いたずら電話といった無形力の行使であっても、これらが原因となって相手が抑うつ状態に陥ったなどの状況があれば傷害罪が成立するおそれがあります。

    傷害罪の罰則は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
    行為の悪質性や被害の程度などが重大であれば、厳しい刑罰が科せられることになるでしょう。

  4. (4)ストーカー規制法違反

    恋愛感情や好意の感情またはそれらの感情が満たされないことで怨恨(えんこん)を抱き、相手に無言電話・いたずら電話をすれば、ストーカー規制法第2条に規定されている「つきまとい等」に該当します

    つきまとい等があるだけでは刑罰を受けることはありません。
    ただし、つきまとい等を反復・継続した場合は「ストーカー行為」となり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。

    また、公安委員会からの禁止命令が発出されているにもかかわらず、命令に違反して同じつきまとい等を繰り返してストーカー行為をはたらいた場合は2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられます。

2、無言電話・いたずら電話で逮捕された事例

実際に無言電話・いたずら電話が犯罪となって逮捕された事例を紹介しましょう。

  1. (1)1年間で3875回の110番通報をして逮捕されたケース

    令和3年5月、愛知県警に9日間で合計3875回の110番通報をした男が偽計業務妨害罪で逮捕されました。通報の内容は無言電話のほか「まともな警察官がいない」「業務妨害になるなら警察官を呼べ」といった不要不急のものばかりで、もっとも多い日では1日で254回の通報を繰り返していたそうです。
    警察の正常な業務が妨害されたことは明らかであり、偽計業務妨害罪の成立は免れない事例です。

  2. (2)3か月で1000回の無言電話で相手を抑うつ状態にして逮捕されたケース

    令和3年5月、上司の携帯電話にあてて3か月間で約1000回の無言電話をかけた神戸市職員の男が傷害の疑いで逮捕されました。無言電話が原因で約6週間の治療が必要となる抑うつ状態に陥ったため、傷害罪として逮捕された事例です。

    無言電話・いたずら電話で傷害罪が成立するのは、これらの行為と精神的な疾患・障害との間に因果関係がある場合に限られます。無言電話やいたずら電話の回数・期間・内容などをもとに総合的に判断されることになるため、数回程度の行為では傷害罪が成立する可能性は低いでしょう。

  3. (3)元交際相手の勤務先への乱暴な電話で逮捕されたケース

    令和3年3月、元交際相手の女性の勤務先に連続して9回の電話をかけたうえで、電話で女性に「土下座させろ」などと乱暴な言動をした佐賀市内に住む男がストーカー規制法違反の疑いで逮捕されました

    元交際相手に復縁を求める、または交際を解消されたことを恨みに感じているなどの理由で繰り返し乱暴な電話やいたずら電話を繰り返すと、つきまとい等を反復・継続しているとされストーカー行為として罰せられます。ストーカー規制法違反にあたる行為は、危害防止の観点から警察が素早く対処するケースが多いため、逮捕される危険は極めて高いでしょう。

3、逮捕された後の刑事手続きの流れ

無言電話やいたずら電話が偽計業務妨害罪などの犯罪にあたる場合は、警察に逮捕されるおそれがあります。
では、警察に逮捕されるとその後はどのような刑事手続きを受けるのでしょうか?

  1. (1)逮捕・勾留による身柄拘束

    警察に逮捕されると、取り調べなどの時間も含めて48時間以内に検察官へと送致されます。
    検察官の段階では、さらに取り調べを受けたうえで24時間以内に勾留請求か釈放のいずれかが選択されます。
    ここまでの72時間が逮捕による身柄拘束を受ける期間です。

    検察官からの請求を受けて裁判官が勾留を許可した場合は、さらに初回で10日間、延長で10日間の合計20日間以内を限度に身柄拘束が続きます。

    逮捕・勾留による身柄拘束は合計で最長23日間です
    この期間は警察署の留置場に身柄を置かれることになるため、自宅に帰ることも、会社や学校に通うことも、外部に電話などで連絡を取ることも許されません。

  2. (2)起訴されると刑事裁判が開かれる

    勾留が満期を迎える日までに、検察官は被疑者を起訴するか、不起訴とするのかを決定します。
    検察官が起訴すれば被疑者の立場は被告人へと変わり、刑事裁判を待つ身としてさらに勾留を受けます。
    裁判官が保釈を認めない限り、刑事裁判が終わるまで身柄拘束は解かれません

    刑事裁判の最終回では判決が言い渡されます。
    有罪となった場合は、法律が定める範囲内で量刑が言い渡され、期限内に異議を申し立てない場合は刑が確定します。

  3. (3)不起訴ならただちに釈放される

    検察官が不起訴を選択した場合は刑事裁判が開かれません。
    ただちに釈放され、社会生活への復帰が許されます。

    検察官の不起訴にはいくつかの理由がありますが、もっとも多いのが起訴猶予です。
    起訴猶予とは、刑事裁判で有罪を証明する証拠はそろっているものの、被疑者本人の反省の度合いや犯罪の内容・程度、被害者への謝罪や賠償の有無といった事情を総合して、あえて起訴しないとする処分です。

    令和2年版の犯罪白書によると、令和元年中に検察庁が処理した事件のうち、56.6%が起訴猶予となっています。
    検察官へと送致されても半数以上が起訴猶予となっている事実をみれば、容疑をかけられてしまったとしても刑罰・前科がついてしまう事態を回避できる可能性は意外にも高いことがわかるでしょう。

4、ただちに弁護士に相談したほうがよい理由

無言電話・いたずら電話を何度もしてしまい、逮捕や刑罰に不安を感じているなら、弁護士に相談してサポートを受けましょう。

  1. (1)被害者との示談交渉を依頼できる

    刑事事件を穏便に解決するためには被害者との示談交渉が重要です
    被害者が警察に届け出をする前の段階であれば、示談成立によって刑事事件へと発展する事態を回避できます。
    すでに警察に被害届が提出されている場合でも、示談が成立すれば取り下げが期待できます。

    被害者との示談交渉には弁護士のサポートが欠かせません。
    加害者本人による交渉では被害者に拒まれてしまうケースも多いので、弁護士を介して示談を進めましょう。

  2. (2)逮捕後のサポートが得られる

    警察に逮捕されてしまった場合も弁護士によるサポートは必須です。

    逮捕直後から勾留が決定するまでの72時間は、家族との面会さえも許されません。
    この期間に逮捕された本人と面会できるのは弁護士だけなので、接見の機会を通じて今後の見通しや取り調べに際してのアドバイスを受けましょう

    身柄拘束からの早期釈放や不起訴などの有利な処分を求めるなら、被害者との示談を成立させる必要があります。
    また、逃亡・証拠隠滅をはかるおそれがないことの客観的な証拠や本人の深い反省を検察官に示す必要もあるので、弁護士に相談してサポートを依頼しましょう

5、まとめ

気晴らしやいたずらのつもりでも、無言電話やいたずら電話の程度や内容などによっては犯罪となります。逮捕されて長期にわたる身柄拘束を受ける、刑事裁判で有罪となって刑罰を受けるといったおそれもあります。

無言電話やいたずら電話で犯罪の容疑をかけられてしまっているようでしたら、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスまでご相談ください。弁護士が、長期にわたる身柄拘束や厳しすぎる処分を回避するために全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています