客引き行為はなぜ問題なのか? 罪に問われるケースや罰則を解説

2023年06月12日
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客引き行為はなぜ問題なのか? 罪に問われるケースや罰則を解説

福山市は、広島市に次いで広島県内で2番目に規模の大きい街です。福山駅を出れば元町・延広町・船町を中心に多くの料理店や居酒屋が軒を連ねており、国道2号線を挟んで昭和町・住吉町にはキャバクラやラウンジ、スナックや「スタンド」も多く、夜は酔客でにぎわいます。

繁華街は、さまざまな犯罪やトラブルが多発するエリアです。とくに、違法な「客引き行為」は取り締まりの対象であり、常に警察が監視の目を光らせています。全国的にも、「警戒中の警察官に客引きの現場を見られた」「私服警察官だと知らずに客引きをした」といった事情で逮捕される事例は多々あるのです。

本コラムでは、客引き行為が犯罪となる場合や、具体的な罰則などについて、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。

1、客引き行為はなぜダメなのか? 適用される法令や罰則

商品を販売したり、飲食物やサービスを提供したりする形態の商売では、通行人の興味をひくための声かけや呼びかけが日常的におこなわれています。
たとえば、生鮮品の小売店で店主が通行人に向けて「安いよ、安いよ」と連呼したり、アパレルショップの従業員が店先で「本日セール最終日です」と呼びかけたりする光景は、日常的にありふれたものでしょう。

ただし、客引き行為や、業種や場所や行為の内容などによって、違法になる場合があるのです

  1. (1)キャバクラなどの不当な客引きは「風営法」に違反する

    キャバクラやラウンジのように従業員が客を接待する形態の店や、パブ・スナック・バーなどのように接待がなくても深夜0時を超えて飲食物を提供する形態の店は、いわゆる「風営法」の規制対象になります。

    風営法とは、正しくは「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」という名称の法律です。
    同法第22条には対象業者の禁止行為が掲げられており「客引きをすること」や「客引きをするために道路や公共の場所で人の身辺に立ちふさがったり、つきまとったりすること」が禁止されています。

    本法における「客引き」とは、相手を特定して自店の客になるよう勧誘することを意味します。
    ただし、通行人一般に対して声をかけて相手の反応を待つといった行為までは、禁止対象には含まれないと考えられています。
    しかし、無視して通り過ぎようとする相手の前に立ちふさがったり、そばを離れずにしつこく勧誘したりといった状況があると、不当な客引きとなるのです。

    罰則は、同法第52条1号の規定により、6か月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方です
    たとえ上司などから業務指示を受けて客引きをおこなったとしても、客引き行為をした本人が処罰対象の主体となります。
    ただし、同法第56条には、違反行為があった場合は行為者だけでなく法人や個人の事業主などにも罰金を科す両罰規定が設けられているので、事業主が従業員に対し違反行為防止のために具体的に指示していたなどの事情がなければ、「従業員が勝手にやった」といった言い逃れは通用しません。

  2. (2)居酒屋などでも執拗(しつよう)な客引きは「迷惑防止条例」違反になる

    風営法の適用を受けない居酒屋などの飲食店でも、しつこく客引きをすると「迷惑防止条例」の違反になることがあります。

    広島県にも「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」が定められており、第5条には「不当な客引き行為等の禁止」が掲げられています。
    同条6号によると、公共の場所において、不特定の者に対し、人の身体または衣服をつかんで離さない、所持品を取り上げるなどの執拗な方法で客引きをする行為は禁止されています。

    本条例における「不当な客引き行為」は、おもに性風俗関連のサービスを提供する店を規制の対象としていますが、執拗な客引き行為については業態を限定していません。
    酒類を提供する居酒屋などでも、禁止行為があれば処罰を受ける点に注意してください。

    違反者には、50万円以下の罰金または拘留もしくは科料が科せられます

    なお、広島県には、「酒類提供営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等の規制に関する条例」、いわゆる「ぼったくり防止条例」も存在します。
    公安委員会規則で定められている対象区域に含まれているため、福山市も規制対象となります。

    ぼったくり防止条例では、名称を問わず営業所を設けて客に飲食をさせる営業のうち、酒類を提供して、かつ接待をおこなう営業を「酒類提供営業(1号営業)」とし、料金について著しく「安い」と誤認させるような事項を告知する勧誘や宣伝を禁止しています。
    たとえば「追加料金なしの1時間2000円ポッキリだよ」と伝えて客引きをして、実際にはそれ以上の金額を請求すると「不当な勧誘」となり、50万円以下の罰金が科せられる可能性があるのです

2、客引きが違法になるケース・違法にならないケース

以下では、客引き行為が風営法違反や条例違反などの違法にあたるケースと、これらの適用を受けず違法にならないケースについて、それぞれ具体的な例を挙げながら解説します。

  1. (1)違法になるケース

    • キャバクラの従業員が、大勢の通行人の中から特定の人をターゲットにして近づき「いいお店がありますよ、料金もサービスしますから」などと言ってつきまとい、しつこく勧誘した
    • ラウンジのアルバイト従業員が、無視してその場から去ろうとしている通行人の目の前に立ちふさがって「まだ時間も早いし、もう一軒寄っていきませんか?」としつこく入店を勧めた
    • 居酒屋の従業員が通行人に声かけをしたところ「終電の時間なので」と告げてその場を去ろうとしたので服をつかんで「タクシーで帰ればいいじゃないですか」と強引に勧誘した


    上述したような行為は、すべて違法です
    取り締まりのために巡回している警察官に見つかったり、迷惑に感じた通行人が警察に通報したりすれば、現行犯として逮捕される可能性があります。

  2. (2)違法にならないケース

    不当な客引きは違法ですが、客を呼び込むための活動すべてが違法となるわけではありません。
    以下のような行為は、風営法違反や条例違反にはあたらないと考えられます。

    • 店先から不特定の通行人に対して「ぜひご来店ください」と呼びかける
    • サービスメニューのチラシや割引クーポンなどを不特定の通行人に配布する


    通行人が呼びかけに応じた、配ったチラシに興味をもったなどの状況があれば、その場でサービス内容を説明する、または店舗まで案内するといった行為があっても問題はありません。

3、客引き行為の裁判例|無罪になったケースと有罪になったケース

客引き行為が問題となって刑事裁判に発展した事例のうち、無罪になった事例と有罪になった事例をそれぞれ紹介します。

  1. (1)警察官の摘発方法が問題となって無罪になったケース

    【さいたま簡裁 平成28年10月17日 平成28年(ろ)第11号】
    路上で通行中の客を装った警察官に対して、居酒屋のアルバイト従業員が「よかったらどうですか? 安くしますので」などの声をかけながら約26.5メートルにわたって追随したとして起訴された事例です。
    この事例では、警察官の摘発方法が大きな争点になりました。

    私服の警察官が繁華街に繰り出し、客を装って客引きを摘発する手法は全国的におこなわれていますが、本事例では警察官が「どうしようかな」「おいしそうだよな」などと勧誘に応じる気があるような文言を口にしています。
    裁判においては、迷惑防止条例が保護するのは生活の平穏であり、客引きを受けて迷惑を受けているというような状況が伺えないうえに、摘発を目的に会話を継続しているのにそのすべてをアルバイト従業員の執拗性に転嫁するのは道義に反すると判断されました。
    そして、無罪が言い渡されたのです。

  2. (2)声をかけた相手が拒絶していなくても有罪になったケース

    【東京高裁 令和2年3月24日 令和元年(う)第1996号】
    ガールズバーへの客引き行為について、声をかけられた通行人は拒絶せず、むしろその発言に興味を示していたので「執拗な客引きとはいえない」と主張するも、有罪判決が言い渡された事例もあります。

    この事例は東京都で発生しました。
    東京都の迷惑防止条例では、公共の場所における不特定の者への執拗な客引き行為が禁止されています。
    そして、被告人は通行人に「今日よかったら遊びは?」「結構評判良いんで」「1時間だけないですか?」などと声をかけながら約21メートルにわたって身辺をつきまとったとして、条例違反に問われたのです。

    被告人側は、同条例に定められている禁止行為は「拒絶の意思を表示しているのに客引きを継続すること」であると主張しました。
    しかし、裁判官は、直接に客引きの対象になった者に限らず、周囲の通行人にも著しい迷惑や不安を与えて生活の平穏を害する行為を禁止するものであると示して、有罪判決を言い渡したのです。

4、客引き行為で逮捕されるとどうなる?刑事手続きの流れ

以下では、客引き行為が違法となって警察に逮捕された後の、手続きの流れを解説します。

  1. (1)逮捕後は72時間以内の身柄拘束を受ける

    警察に逮捕されると、ただちに身柄が拘束されます
    警察署へと連行されて留置場に収容され、厳しい取り調べを受けることになるのです。
    ここでの身柄拘束は、48時間が限界です。

    逮捕から48時間が経過するまでに、逮捕された容疑者の身柄は検察官へと送致されて引き継がれます。
    ここでもさらに24時間を限界とした身柄拘束を受けて検察官による取り調べがおこなわれるので、逮捕後の身柄拘束の限界は48時間+24時間=72時間となります

  2. (2)勾留されるとさらに最大20日間にわたって身柄を拘束される

    逮捕から72時間が経過すれば必ず身柄拘束が解かれる、というわけではありません。
    検察官の請求によって裁判官が勾留を許可すると、原則10日間、延長請求があればさらに10日間以内、合計で最大20日間にわたって身柄拘束が延長されます。

    勾留を受けている間の身柄は警察へと戻されるので、自宅に帰ることも、家族や友人に連絡することも許されません。
    強い孤独や不安を感じる事態になるだけでなく、厳しい取り調べや再現見分などの捜査を受けるので、精神的に疲弊する日々が続くことになるでしょう

  3. (3)起訴されると刑事裁判が開かれる

    勾留が満期を迎える日までに、検察官は起訴か不起訴かを決定します。

    起訴には、正式裁判の請求(公判請求)の他に、略式手続の請求があります。検察官は、100万円以下の罰金又は科料を求める場合、被疑者に異議がなければ、簡易裁判所に対する略式手続の請求をします。略式手続では、いわゆる刑事裁判(公判)を開かずに略式命令により刑が科されます。

    検察官が公判請求した場合は、刑事裁判が開かれます。
    被疑者の立場は被告人となり、刑事裁判が継続している間はさらに勾留されるので、保釈が認められるなどしない限り、刑事裁判が終わるまで釈放されません。

    刑事裁判の最終回の日には、裁判官が判決を下します。
    検察官が起訴に踏み切った事件では、そのほとんどに有罪判決が言い渡されているので、先に挙げた事例のように無罪判決が得られる可能性は低いでしょう

  4. (4)早期釈放や処分の軽減を目指すなら弁護士に相談を

    風営法違反や迷惑防止条例違反の容疑で逮捕されると、逮捕の段階で最大72時間、勾留の段階で最大20日間、合計すると最長で23日間にわたる身柄拘束を受けます。
    身柄拘束が長引けば長引くほど、社会生活への悪影響は大きくなるでしょう。

    有罪判決を受ける事態になれば、たとえ勤務先からの指示だったとしても、客引き行為をはたらいた本人が処罰されます。

    逮捕や勾留による身柄拘束から生じる不利益を回避するためには、弁護士に依頼して、早期釈放を目指した弁護活動を尽くすことが重要です
    取り調べに際する対応策のアドバイスがあれば、早期釈放だけでなく、処分の軽減も期待できるでしょう。

    逮捕直後の72時間は、たとえ家族でも本人と面会できません。
    この期間に本人と面会できるのは弁護士だけです。
    迅速な対応が重要になるため、逮捕されたら、すぐに弁護士に連絡しましょう

5、まとめ

執拗な客引き行為は、風営法違反や迷惑防止条例違反といった犯罪になります。
繁華街では警察による取り締まりがおこなわれているので、通行人を勧誘しているところを発見されたり、私服警察官だと知らずに強引に勧誘していたりすると、逮捕されてしまう可能性があります。

違法な客引き行為の容疑で逮捕されると、身柄拘束による不利益が生じます。また、もし起訴されると、刑罰が科せられたりする事態を避けることは困難です。
早期釈放や不起訴を目指すために、できるだけ早く弁護士に依頼しましょう。

客引き行為が問題となり、風営法違反や迷惑防止条例違反の容疑をかけられてしまう事態に発展したら、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、穏便な解決を目指してサポートします

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