別居中、相手が勝手に家に入ることには法律的に問題はないのか?
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福山市が公表している人口動態統計によると、令和元年に市内で離婚したカップルは787組、離婚率は1.71でした。
子どもを連れて出ていった配偶者が、相手の不在中に自宅に勝手に入って通帳などを持ち出している、という場合があります。家に残った側としては、勝手に出て行っておきながら、自分の不在中を狙って家に上がり込むのには納得がいかないこともあるでしょう。
このように、別居中の配偶者が自宅に勝手に入ること、勝手に荷物などを持ち出すことは法的にはどう判断されるのでしょうか? 本コラムでは、別居中の荷物の取り扱いに関する注意点なども含めて、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。
1、別居後、勝手に家に入る行為は違法になる?
勝手に家を出ていった配偶者が、自分の不在中に自宅に立ち入って荷物を持ち出している場合、法律的には以下のような点が問題となります。
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(1)そもそも立ち入り行為は適法なのか
まず「夫婦とはいえ、別々の生活拠点を持って別居している以上、出ていった後に勝手に立ち入るのは違法ではないか」と考える方が多いでしょう。
この点については、「別居を開始したら、ただちに不法侵入になる」とは言い切れません。しかし、場合によっては、刑法上の住居侵入罪(刑法130条前段)に該当する可能性があります。
特に、家に残った側が、配偶者が自宅に入らないように自宅の鍵を変更した後にも、配偶者がなんらかの手段で無理やり侵入したような場合は、現在の占有者の許可がないことが明らかであるため、不法侵入にあたる可能性が高まるでしょう。 -
(2)家から物を持ち出す行為は適法なのか
「家を出ていった配偶者が、相手の不在中に勝手に物を持ち出す」という行為は、適法なのでしょうか?
この問題については、刑法の「窃盗罪」にあたるかどうかがポイントになります。
刑法では、原則として他人が占有する財物を許可なく自分の占有に移す行為を窃盗罪として定めています。
「占有」とは、「事実上、その物を実際に管理している状態」のことです。したがって、自分の所有物であっても、自分以外の人が管理占有しているならば、その占有状態から勝手に持ち出すのは窃盗にあたる可能性があるのです。
以上のことから、家に残った側の私物や夫婦の共有物はもちろん、家を出ていった側の私物であっても、勝手に持ち去ってしまえば窃盗罪が問題となるように思われるかもしれません。
しかし、刑法には親族の特例があり、窃盗行為を含む一部の行為は親族間で行っても罪に問われません。これを「親族相盗例」といいます。
夫婦は、離婚が成立するまでは、別居していても親族関係にあります。家を出ていった配偶者が、自宅から勝手に物を持ち出し、それが形式的には窃盗罪にあたるとしても、親族相盗例の適用により、罪を問うことはできません。
したがって、配偶者が勝手に物を持っていってしまっても、まだ離婚が成立していない場合には警察に被害届を出すなどの手法は使えないということになるのです。 -
(3)その他の違法行為の可能性
上述したように、離婚が成立していない状態の場合には、配偶者を窃盗罪に問うことは困難です。
しかし、配偶者が自宅に立ち入った際に、物を壊したような場合には「器物損壊罪」に問える可能性があります。器物損壊では、親族間でも特例が適用されないためです。
具体的には、玄関の鍵や窓を壊した場合や、いやがらせなどの目的に故意に物を割ったり、思い出の品を壊したり、アルバムを焼いてしまったりした場合が考えられます。
これらの場合には、財産的な損害が生じたことを理由にして、相手に対して損害賠償請求をすることも検討できます。 -
(4)通帳や財産を持ち出された場合
刑法上の犯罪に該当するかどうかとは別に、離婚が成立した後の財産分与についても、想定しておく必要があります。
特に、通帳などの財産に関係するものを持ち出された場合には、相手に対する不信感も増してしまうでしょう。結婚生活中に築いた財産は夫婦どちらの名義になっていても原則としては共有財産にあたり、財産分与の対象となります。したがって、相手名義の通帳であっても、離婚の際には必ず残高を開示してもらい、分与の基礎とする必要があるのです。
相手が無断で通帳を持ち出した場合は、勝手に残高を引き出して使われてしまう可能性が高いでしょう。そのような場合には、財産分与を正確に行うことも困難になります。
もし通帳を持ち出された場合には、共有財産として財産分与の対象となることを、相手に対して早めに伝えておいたほうがよいでしょう。
2、別居後、相手の荷物を勝手に処分することは問題ない?
配偶者が勝手に出て行った場合には、家に残った側が、「自宅に残された相手の荷物を処分してしまいたい」という気持ちになることも多々あります。
しかし、相手の荷物を勝手に処分することはさまざまな危険を伴うのです。
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(1)器物損壊罪に問われるリスク
相手の持ち物を勝手に壊したり廃棄したりしてしまうと、刑法上の器物損壊罪に問われる可能性があります。
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(2)損害賠償請求のリスク
処分してしまった物の財産価値について、民事上の損害賠償請求を求められる可能性があります。
衣服や小物などであれば大きな財産価値は認められませんが、金額の大小にかかわらず、配偶者側が激怒して裁判などに訴えることがあり得ます。
刑法に問われる可能性や、民事裁判に対応する手間や精神的負担を考えると、相手が置いていった荷物を勝手に処分することは避けたほうが良いでしょう。
なお、自分はなにも処分していないにもかかわらず、相手の側から「自分のものが無くなった、勝手に処分された」などと主張されてしまう場合もあります。
配偶者が出て行った時の家の中の状態を写真に撮り、物の所在や状態を証拠として押さえておけば、言われのない罪に問われる事態を予防できるでしょう。
3、別居後の荷物のやり取りや、家への立ち入りを穏便に行うには?
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(1)相手と話し合いができる場合
相手と冷静に話し合いができる場合には、小さなものでも一つ一つ確認をとって、どちらがどの荷物を引き受けるのか、合意をとるようにしましょう。
実際に荷物を引き渡す際には、双方が現場に立ち会って、荷物を確認しながら搬出するのがベストです。
一度に搬出しきれない場合には、その後の搬出や引き渡しの日程、方法も決めて、積み残しや忘れ物がないように気を付けましょう。
搬出が完了したら、その後は、お互いに荷物について文句を言わないことまで合意し、離婚の際にも荷物の点がトラブルとして再燃することのないように、書面を交わしておくことをおすすめします。 -
(2)相手と話し合いができない場合
離婚を前提に別居を開始した場合、冷静に話し合いができるとは限りません。小さな荷物ひとつでも大喧嘩になってしまい、まともな会話もできないこともよくあります。
こんな場合には、相手の生活にとって最低限必要なものだけを合意の上で送る、または相手に引き取らせるということが考えられます。「最低限必要なもの」の具体例としては、相手の仕事や生活にすぐに必要な道具や衣類、子どもの学校用品や衣服などが考えられます。これらの品物をとりあえず引き渡せば、相手も落ち着いて、冷静になるケースがあります。
原則として、財産分与の手続として、家財道具も含めた動産類を二人で分けていくべきです。家に残った側としては、「勝手に出て行った配偶者に何かを渡すだけでも腹が立つ」という心情にもなるかもれしません。しかし、配偶者が勝手に家に立ち入ったり、激昂して話が揉めたりするような面倒を避けるためには、早めに生活必需品の確認と引き渡しを済ませることが最善だと言えるのです。 -
(3)代理人を入れて話し合う
生活必需品以外の物をどうやって分けるかは、離婚の財産分与と直結する重要なポイントです。
早い段階で弁護士を代理人としてつけることで、財産分与を見据えた、適切な分配方法を検討することができます。また、弁護士が介入することで、引き渡しに関する合意書面を作成し、その後のトラブルを未然に防ぐために適切な対処をすることもできるようになるのです。 -
(4)代理人弁護士に立ち会ってもらう
相手に荷物を引き渡すことに納得していても、「相手が取りに来るのが嫌だ」「顔を合わせるのも嫌だ」といった感情的な問題から、話が進まないこともあります。
そんな場合には、弁護士が荷物の引き渡しに立ち会うことで、スムーズに進むことがあります。
家に残った側としては、たとえ合意をした後でも、自分がいない間に荷物を持ち出されるのは抵抗を感じることもあるでしょう。また、「合意していない荷物まで、勝手に持ち出されるのではないか…」と不安に思われる場合もあります。それと同時に「自分自身が自宅にいて、荷物の持ち出しに立ち会って、顔を合わせて喧嘩になることも嫌だ」と思われる方もおられるのです。
このような場合には、家に残った側の代理人である弁護士が立ち会うことで、荷物の引き渡しを合意のとおりに確実に行うことができます。また、配偶者が勝手に家の中を物色する等の行為も弁護士が制止することができるのです。
4、別居に関する離婚問題で弁護士がサポートできること
別居は、離婚に関する話し合いのスタート地点です。
離婚にあたっては、財産分与や慰謝料、離婚するまでの生活費の支払いや婚姻費用の分担など、さまざまな問題について短期間で結論を出して解決する必要があります。子どもがいる場合には親権、養育費、面会交流などの問題が加わります。
しかし、別居を始めてしまうと、二人で話し合うことは大変難しくなってしまうのです。また、財産分与のために不可欠となる相手の資産状況の確認もできなくなります。
離婚の問題について弁護士に依頼することには、以下のようなメリットがあります。
- 共有財産を正しく評価し、適正な財産分与の額と方法がわかる
- 離婚までの婚姻費用の適正な額がわかる
- 子どもの親権や養育費に加え、面会交流の確保についても相談できる
- 協議離婚する場合には、今後のトラブルを防ぐために法的に有効な離婚協議書を作成できる
- 離婚調停や裁判になった場合も代理人として引き続きサポートを依頼できる
- その他、離婚にあたって注意すべき点をすべて相談できる
早期の段階から弁護士に依頼することで、その後の対応を適切に進めやすくなります。配偶者と関係に問題が生じて、別居にまで至った方は、離婚を決意しているか否かを問わず、まずは弁護士にまでご連絡ください。
5、まとめ
本コラムでは、家を出ていった配偶者が勝手に自宅から荷物を持ち出した場合や、別居後の各自の所有物の取り扱い方法について説明しました。
勝手に出ていった配偶者が家に出入りしていることを快く思わない方は多いでしょう。とはいえ、立ち入りを禁止してよいものか、荷物を勝手に処分してもよいのか、悩むことも多いはずです。また、別居にまで至った以上、離婚についてもしっかりと検討しながら、今後のことも見据えた適切な対応を行うことが必要になります。
ベリーベスト法律事務所では、別居中の夫婦の離婚問題について多数の経験を持つ弁護士が、親身にご相談に応じています。お一人お一人の事情に合ったアドバイスを心がけていますので、ぜひ一度、ご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています