契約の「効力発生日」を判断する方法とは? 民法の基本を解説
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近年では、フリーランスとして働く人や、副業で自分のスキルを活かす人も増えています。
フリーランスとして働く人は、会社員と違って組織が自分を守ってくれる仕組みがないため、自分で自分を守っていく必要があります。そこで大事なのが、仕事を始める前に、取引相手と契約書を作成しておくことです。
本コラムでは、契約書の作成日と効力発生日の違いなど、フリーランスが自分を守るために知っておきたい契約書の日付の意味について、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が詳しく説明します。
1、作成日と効力発生日がずれる場合どちらかを過去にすることはできる?
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(1)契約書の重要さ
契約書は、取引の内容や報酬、支払い方法や責任の範囲などを示した、重要な書類です。
日本の場合、契約書を作成しなくても、契約自体は有効に成立する契約がほとんどです。
実際、契約書を作ることなく取引を進められている場合もあります。
しかし、トラブルが起きた際には、契約書がなければ解決が困難になるおそれがあります。
たとえば、ビジネスの現場では、仕事の依頼を受けて、注文どおりに仕事を仕上げても、相手が代金を払ってくれない、という事態が起こることがあります。
この場合、相手に代金を全額払ってもらうためには、請求する側が証拠を出す必要があります。その証拠のなかでも特に重要になるのが、「契約書」なのです。 -
(2)契約書作成日と効力発生日の違い
以下では、契約書を作る際に重要となる、「作成日」と「効力発生日」について解説します。
① 契約書作成日とは
契約書の「作成日」とは、「契約当事者全員が契約書に署名した日」のことです。
通常、契約書の最後のあたりに記入欄が設けられています。
契約書の作成日の記入欄は、多くの場合、作成当事者が何人いる場合でも、一か所しかありません。作成日の記入欄が一つしかなくとも、契約の当事者がその場で同席している場合には、全員が署名押印したその日を記入すればOKです。しかし、実際には、対面で契約書を交わすのではなく、郵送でやり取りすることも多いです。すると、どちらかが先に署名押印してから相手に郵送し、受け取った相手が後から署名押印して完成する、という流れになります。
この場合の契約書作成日について、法律上のルールはありません。
基本的には、「当事者全員が納得して署名押印した」という段階で、契約書が作成されたといえるので、最後の署名押印の日を記入するのが適切ともいえます。
とはいえ、日付が確定しないままにやりとりするのも不安定でしょう。そのため、署名欄ごとに作成日の記入欄を設けておき、自分の署名欄の作成日付を記入の上、送付することをおすすめします。
なお、契約書作成日と契約成立日とは異なる場合があります。契約成立日とは、契約の申込みに対する承諾の到達日を指します。
契約書を郵送することによって契約をする場合には、当事者の一方(申込者)が署名押印済みの契約書を相手に郵送することが、契約の申込みに当たります。また、申込者から契約書を受け取った相手(承諾者)が署名押印済みの契約書を返送することが、契約の承諾に当たります。この場合、契約成立日は、承諾者が署名押印した日(契約書作成日)ではなく、承諾者の署名押印のある契約書が申込者に届いた日となります。
このことから、相手が契約書作成日の記入を忘れていた場合、相手から契約書を受領したその日に、相手に対し、契約書を受領した旨伝えて、その証拠を残しておくことが考えられます。契約書の作成日の記載がなくとも、契約書が返送されてきた日について証拠があれば、契約成立日を特定できることになります。
② 効力発生日とは
契約の効力発生日とは、まさに契約の効力(の一部)が発生する日付のことです。
契約とは、その当事者を契約上の権利と義務の関係で拘束することでもあります。
この権利と義務の関係が実際に始まるのが、契約の効力発生日なのです。 -
(3)契約効力発生日を未来の日付にすることはできるか
たとえば、先に契約書を作っておいて、実際に契約期間が開始するのはあとから、という場合があります。いわば、将来についての契約を定める場合です。
この場合には、契約書に「本契約は令和〇〇年〇〇月〇〇日から1年間有効とする」といった未来の日付を条項に入れておきます。
すると、「〇〇年〇〇月〇〇日」から契約の効力が発生することになります。 -
(4)契約書作成日をバックデイトできるか
すでに当事者間では合意ができており、仕事にも着手しているが、契約書の作成だけが遅れているという場合もあります。
たとえば、仕事の依頼が2月1日、依頼内容の確認や費用について確認や交渉を行った結果、2月20日に合意ができて、翌日から仕事に着手したけれども、契約書の作成は3月10日に行った、という場合です。
この場合には、3月10日の契約書の作成日の時点では、2月20日に合意した契約が、既に有効に始まっているという状態になります。
この場合、契約書作成日を、合意の時点までさかのぼって記載してもよいのか、いわゆるバックデイトの可否が問題となります。
上記のケースでは、契約書作成日を2月20日と記載してもよいのか、という意味です。この点については、契約書はお互いの権利と義務を明記した重要な法的書面ですから、たとえ合意があっても虚偽の日付を書くことは、コンプライアンス的に望ましくありません。
したがって、契約書のバックデイトは避けるべきでしょう。
具体的な対処方法としては、契約書の中に、「甲及び乙は、甲乙間で、〇〇年2月20日、以下の内容の契約が成立したことを、本契約書をもって相互に確認する。」という柱書又は、「本契約は、契約書作成日にかかわらず、〇○年2月20日に成立し、同日に効力を生じていることを確認する。」といった条項を入れておくことで、適切に過去の契約成立日や効力発生日を明記しておくことができます。
2、作成日が空欄だった場合に起こり得る問題とは
実際のビジネスシーンでは、作成日が空欄のままになっている契約書がよく見受けられます。
以下では、契約当事者が契約書作成日を記入せずに空欄だったときに起こる可能性のある問題について解説します。
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(1)誰かが後から勝手に記入するリスク
契約書作成日が空欄のままだと、あとから契約の相手方や第三者が勝手に日付を記入することが可能です。
自分に都合の良い日付を記入されてしまうリスクもあり、そうなると、大きな損害につながることもあり得ます。 -
(2)起算日が不明で請求できない
契約書では、お互いの義務を履行する期限について、「本契約書作成の日から14日以内」、「本契約書作成日の翌月末日」といった表記をすることがあります。
この場合、契約書に作成日付がないと、その期限がいつ到来したのか不明になってしまいます。
法律上は、期限が到来したことを証明しなければ相手方に請求することができません。つまり、契約書作成日付が抜けていたために相手に代金を請求できないといったトラブルも生じかねないのです。契約書作成日は必ず記入するようにしましょう。
3、もめた場合は弁護士に相談
フリーランスは企業に対して弱い立場であることが多く、仕事を受注した後に思わぬ不利な条件が発覚し、トラブルになることがあります。
そうしたトラブルを避けるためには、しっかりとした契約書を作っておくことが一番です。しかし、契約書を一から作るのは難しいものです。
たとえば、相手が作った契約書の法的な意味を紐解くことも簡単ではありません。契約書の日付一つをとってみても、実際にどうしたらいいのか迷う場面は多いでしょう。また、仕事を受ける立場になると、自分のサービスを利用してくれる相手に対し、強気に出ることが難しい場合があります。そのため、内容をはっきり理解しないままに、相手の作った契約書に押印してしまったというケースが多い、という実態があります。
上記のようなトラブルを防ぐためにも、契約を交わす際には、ぜひ弁護士への相談を検討してください。
契約書は、ちょっとした言い回しひとつで、自分の責任を大きく定めてしまうリスクをはらんでいます。相手からの契約書は安易に押印せずに、自分のリスクを十分に理解してから押印すべきです。
また、どんなに注意をしていても、ビジネスには思わぬトラブルがつきものです。
相手とのトラブルに巻き込まれそうな場合は、早めに弁護士に相談して、対処方法を検討しましょう。特にフリーランスの場合は、実務作業を全部自分でやる必要があり、トラブルが生じた際のロスは仕事の支障に直結します。
法的な検討や相手との交渉などは、弁護士などの専門家に任せたほうが、自分の仕事に専念できます。ビジネスのトラブルは早めに解決することが成功への鍵です。
そのために、弁護士などの専門家の支援を受けることも積極的に検討してください。
4、業務をスムーズに進めるためにも、顧問弁護士の検討を
フリーランスとして本格的に事業を行っていく場合、法的なトラブルが起きる前に、いつでも気軽に相談できる相手を持っておくことは大きな助けになります。
その一つの方法として、顧問弁護士サービスをご利用することをおすすめします。
顧問弁護士には、契約書の作成やリーガルチェックだけでなく、売掛金の回収や新しい事業の法的リスクについても相談することができます。
特にフリーランスの場合は、専門的な技術をもって活動している方が多いため、その専門にあった顧問弁護士を見つけることで、ビジネスの可能性を高めることができるでしょう。
5、まとめ
本記事では、契約書作成日と効力発生日の違いと注意点について説明しました。
それぞれの日付の意味や、日付をバックデイトすることのリスクなど、契約書のノウハウ全体を理解しておくことは、フリーランスとしてビジネスを確立するために必要不可欠なことです。
とはいえ、最新の法的な知識を自分で調べることはなかなか難しく、一人ですべてを背負うとリスクも大きいといえます。
ベリーベスト法律事務所では顧問弁護士サービスを提供しております。気になる方は、まずはお気軽に、ベリーベスト法律事務所までご連絡ください。
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