サービス残業は本人の意思でも違法? 常態化のリスクや対策を解説

2024年08月19日
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サービス残業は本人の意思でも違法? 常態化のリスクや対策を解説

広島労働局の公表によると、令和4年度に長時間労働が疑われる692事業場に対して監督指導が行われました。内、318事業場で違法な時間外労働が確認され、さらに賃金不払残業があったものは38事業場もあったとのことです。

サービス残業は、賃金の未払いとして労働基準法違反に当たります。労働者本人の意思でサービス残業が行われている場合も、同様に会社が労働基準法違反の責任を問われるおそれがあるので注意が必要です。

本記事では、労働者本人の意思によるサービス残業が違法である理由や、サービス残業を放置した場合のリスクなどを、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。

1、サービス残業は本人の意思でも違法なのか?

サービス残業は、労働者本人の意思で行っている場も違法であり、会社はペナルティーを受けるおそれがあるので注意が必要です。

  1. (1)サービス残業とは

    「サービス残業」とは、所定労働時間を超えて行われる労働(法内残業・法外残業)や休日に行われる労働(休日労働)のうち、残業代が支払われないものの俗称です。

    所定労働時間を超えて行われる労働に対しては、労働基準法に基づき残業代を支払わなければなりません。したがって、会社が労働者に対してサービス残業を指示することは労働基準法違反に当たります

  2. (2)サービス残業は本人の意思でも違法となるケースがある

    サービス残業は、労働者本人の意思で行われた場合でも、状況によっては賃金不払いとして会社が処罰を受ける可能性があります。

    労働者が自発的にサービス残業をしているように見えても、それを会社が黙認している場合は労働基準法違反に当たると考えられます。

    また、会社がサービス残業の事実を把握していなかった場合でも、所定労働時間に照らして業務量が多すぎる場合には、事実上会社がサービス残業を指示していたと捉えられる可能性があります。

    会社としては、労働者本人の意思によるものを含めて、サービス残業の慣行を早急に解消しなければなりません

  3. (3)サービス残業をさせた会社に対するペナルティー

    労働者にサービス残業をさせた会社は、労働者に対して正規の残業代に遅延損害金を付した額を支払わなければなりません。また、訴訟を通じて未払い残業代の請求を受けた場合には、裁判所から付加金の支払いを命じられることもあります(労働基準法第114条)。

    また、労働基準監督官の臨検を経て是正勧告を受けることもあり得ます。この場合、指定された期間内にサービス残業を解消し、その旨を労働基準監督署へ報告しなければなりません。

    さらに、悪質な場合には刑事訴追され、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処されることもあり得るので注意が必要です(同法第119条第1号)。

2、本人の意思によるサービス残業の例とリスク

労働者本人の意思でサービス残業が行われるケースとしては、主に以下の例が挙げられます。いずれも会社にとっては大きなリスクを伴いますので、早急に是正しましょう。



  1. (1)持ち帰り残業

    労働者が自宅に仕事を持ち帰って残業をする場合、会社としては残業時間を把握しにくいケースが多いです。この場合、残業時間に対して実際の残業代の支払額が不足し、サービス残業が発生することがよくあります。

    持ち帰り残業による残業代の未払いが積み重なると、どこかのタイミングで一挙に未払い残業代を請求されるリスクが高まります

    また、私用PC等での持ち帰り残業を黙認していると、情報漏えいのリスクが高まる点にも注意が必要です。

  2. (2)残業時間の過少申告

    上司の指示などにより、労働者が残業時間を過少申告しているケースも見られます。たとえば、実際には残業をしているにもかかわらず、一律定時で打刻させるようなケースが典型例です。

    上記のような不正打刻を会社が黙認していると、悪質な労働基準法違反と評価され、是正勧告や刑事罰を受けるリスクが高まるのでご注意ください

3、労働基準監督署による臨検の流れと企業の対応

労働基準法違反のサービス残業が疑われる場合、労働基準監督官が事業場に対して臨検(立ち入り調査)を行うことがあります。

労働基準監督官による臨検の流れは、以下のとおりです。各段階において、弁護士のアドバイスを受けながら適切に対応しましょう。



  1. (1)事前連絡|抜き打ちの場合もある

    労働基準監督官が臨検を行う際には、事業場に対して事前に連絡するケースが多いです。この場合、提案された日程の都合が悪いときは、日程の変更を認めてもらえることがあります。

    ただし、悪質な違反が疑われるケースなどでは、抜き打ちで臨検が行われることもあります。この場合は基本的に、臨検を拒否することはできません。臨検を拒否することで30万円以下の罰金になる可能性があります(労働基準法第120条4号)。
    もし抜き打ちでの臨検を受けることになったら、速やかに顧問弁護士へ連絡をとりましょう

  2. (2)事業場への立ち入り調査|書類の提出・尋問など

    労働基準監督官による臨検では、帳簿・書類の提出が求められるほか、使用者・労働者に対する尋問が行われることがあります。
    労働基準監督官の指示は最大限協力し、必要な対応を行いましょう

  3. (3)指導票の交付・是正勧告

    臨検において、労働基準法に違反する事実は認められなかったものの、何らかの改善が必要と判断された場合には「指導票」が交付されます。

    指導票の交付を受けた場合には、その内容に従って改善措置を講じた上で、指定された期限までに労働基準監督署へ報告することが求められます。

    これに対して、労働基準法違反の事実が認められた場合には、事業場に対して是正勧告が行われます。是正勧告を受けた場合も同様に、改善措置を講じた上で、指定された期限までに労働基準監督署へ報告しなければなりません。

    是正勧告に従わない場合は刑事訴追されるリスクが高まるので、勧告内容に従って速やかに是正措置を講じましょう

  4. (4)検察官送致(送検)

    是正勧告に従わない場合や、労働基準法違反の内容が重大な場合には、労働基準監督官が事件を検察官へ送致します。

    検察官は、犯罪への該当性および処罰の要否を検討した上で、刑事訴追するかどうかを検討します。検察官が事業主を起訴した場合には、刑事手続きによって有罪・無罪および量刑が審理されます

4、本人の意思でサービス残業をさせないための対策

労働者本人の意思でサービス残業をさせないためには、以下の対策を講じることが効果的です。



  1. (1)業務量の偏りを解消する

    労働者の自発的なサービス残業は、業務量の過多が原因で発生しているケースが多いです。

    労働者の間で業務量の偏りが見られるようであれば、まずは偏りを解消するように努めましょう。業務量の少ない従業員に業務を分担させたり、新規採用を増やしたりするなどの解決策が考えられます

  2. (2)労働時間を重視した評価制度を見直す

    人事評価制度において、長時間労働をした人が高く評価される仕組みになっていると、労働者の自発的なサービス残業が増えてしまう可能性が高いです。

    労働時間ではなく、達成した成果に応じて評価を行うなど、人事評価制度の見直しを行いましょう

  3. (3)サービス残業の禁止を周知徹底する

    サービス残業が違法である意識は、必ずしもすべての労働者に浸透しているとは限りません。サービス残業は禁止である旨を周知徹底し、労働者側の意識改革を図りましょう

  4. (4)勤怠管理システムを導入・改善する

    労働時間が労働者の自己申告制になっている場合、過少申告によるサービス残業のリスクが高まります。機械的に労働時間を記録できる勤怠管理システムを導入するなどして、労働時間を正確に把握するよう努めましょう。

5、サービス残業の問題を弁護士に相談するメリット

企業内でサービス残業に関する問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談しましょう。

サービス残業に関する問題について弁護士に相談することの主なメリットは、以下のとおりです。

  • サービス残業の解消に向けた具体策のアドバイスを受けられる
  • 労働基準監督官の臨検が行われた場合に、サポートを受けられる
  • 労働者から未払い残業代請求を受けた場合に、企業側の代理人として対応してもらえる
など

6、まとめ

労働者本人の意思による場合でも、サービス残業は違法と判断される可能性が高いです。社内でサービス残業が常態化している場合は、やめさせるための対策を早急に実施しましょう。

サービス残業をやめさせるための対策の内容や、従業員に未払い残業代を請求された場合の対応などについては、弁護士へのご相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所には、労働事件の経験を豊富に有する弁護士が多数在籍しておりますので、サービス残業に関するトラブルについてはお早めにご相談ください。

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