勝手に残業をする社員に対して何らかの処分をすることは可能なのか
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広島労働局の公表によると、令和4年度に広島県内の労働基準監督署が監督指導を行った692事業場のうち、違法な時間外労働があったものは318事業場でした。
従業員が勝手に残業をすると、会社は長時間労働や残業代の未払いなどにより、労働基準法違反のリスクを負ってしまいます。また、残業代の支払いがかさむと、会社の経営を圧迫する事態にもなりかねません。
勝手に残業する従業員に対しては、懲戒処分を行うことも選択肢のひとつです。ただし懲戒処分を行うに当たっては、法律上の要件を満たす必要がありますので、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。
本記事では、勝手に残業をする従業員に対して懲戒処分ができるかどうかから、および残業代の支払いの要否などをベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。
1、勝手に残業をする従業員を処分できるか?
会社の許可を得ず勝手に残業をする従業員に対しては、懲戒処分を行える場合があります(残業代を支払わない「サービス残業」についても同様)。
ただし、懲戒処分に当たっては法律上の要件を満たす必要があるほか、重すぎる懲戒処分は違法の可能性があります。以下、詳しく解説していきます。
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(1)懲戒処分の主な種類と要件
懲戒処分とは、就業規則違反に当たる行為をした従業員に対し、懲罰の目的で会社が行う処分です。主な懲戒処分の種類としては、以下の例が挙げられます。
主な懲戒処分の種類 - 戒告、譴責(けんせき):文書で厳重注意を与える懲戒処分
- 減給:従業員の賃金を減額する懲戒処分
- 出勤停止:従業員の出勤を禁止し、その期間中の賃金を支給しない懲戒処分
- 降格:従業員の役職を降格させ、役職手当等を恒久的に不支給とする懲戒処分
- 諭旨解雇(諭旨退職):従業員に退職を勧告する懲戒処分
- 懲戒解雇:従業員を強制的に解雇する懲戒処分
会社が懲戒処分を適法に行うためには、以下の要件を満たさなければなりません。
懲戒処分の要件 - ① 労働者の行為が就業規則上の懲戒事由に該当すること
- ② 就業規則において、懲戒処分があり得る旨が定められていること
- ③ 労働者の行為の性質・態様などに照らして、懲戒処分に客観的・合理的な理由があり、社会通念上相当と認められること
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(2)勝手に残業することが懲戒事由に当たるケース
従業員が会社の許可を得ず勝手に残業することは、以下のような場合には懲戒事由に該当する可能性があります。
- 就業規則において「会社の許可を得ずに残業すること」が懲戒事由として定められている場合
- 就業規則において「会社の業務命令に違反すること」が懲戒事由として定められており、かつ会社が無許可での残業を禁止する旨の業務命令を発し、従業員に対して周知させていた場合
これらの場合には、勝手に残業をする従業員に対する懲戒処分を検討しましょう。
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(3)重すぎる懲戒処分はNG|段階的に重くすることも検討すべき
勝手に残業をすることが就業規則違反に当たる場合でも、従業員に対して重すぎる懲戒処分を行うのは危険です。
懲戒処分の重さは、従業員の行為の性質・態様などと釣り合ったものにする必要があります。重すぎる懲戒処分は、懲戒権の濫用として違法・無効になり得るので注意が必要です(労働契約法第15条)。
無許可での残業に対する懲戒処分は、まず軽いものから行い、指導に従わない場合には段階的に重くするのが賢明でしょう。
2、従業員に勝手に残業させないようにする方法は?
従業員による無許可での残業を阻止するためには、会社として以下の対応を行いましょう。
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(1)残業の許可制・無断残業の禁止を明確にルール化する
無許可での残業を抑制するには、残業許可制および無断残業の禁止を明確にルール化すべきです。
上司などから口頭で指示するのではなく、就業規則に残業の許可制および無断残業の禁止を明記しましょう。 -
(2)従業員研修などによってルールを周知する
就業規則において残業の許可制および無断残業の禁止を明記したら、その内容をすべての従業員に対して周知しましょう。
定期的に従業員研修を実施し、その中で残業に関するルールの講義を行うと、従業員におけるルールの認知度・理解度を高めることができます。 -
(3)従業員の業務負担を軽減する
従業員が会社に黙って残業をする背景には、業務が多すぎて勤務時間内に終わらないという事情があるのかもしれません。
一部の従業員に業務負担が偏っている場合は、他の従業員とのバランスに配慮して負担軽減を図りましょう。
また、会社全体の業務量に対して従業員が少なすぎる場合は、積極的に新規採用を行って人員を増やすことも検討すべきです。 -
(4)従業員の労働時間を正しく把握する
従業員の業務量を適正化するためには、各従業員の労働時間を正しく把握する必要があります。
労働時間を従業員の自己申告制としている場合、会社が把握できない労働時間が発生したり、一部の従業員に負担が偏っていることを認識できなかったりするリスクがあります。
機械的に労働時間を記録できる勤怠管理システムを導入するなどして、労働時間の正確な把握に努めましょう。
また、労働時間の実態を把握するためには、従業員とのコミュニケーションを適切にとることも大切です。日々の声かけに加えて、上司と従業員の1on1ミーティングを定期的に設けるなど、従業員の生の声にきちんと耳を傾けましょう。
3、勝手に残業をする従業員に対しては、残業代を支払わなくてもよい?
会社の許可を得ず勝手に残業をする従業員に対しては、残業代を支払わなくてもよいように思われます。
ただし、会社が残業を黙認していると判断されると、残業代の支払義務が生じる点に注意が必要です。
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(1)無断残業に係る残業代の支払いが不要とされた裁判例
従業員が会社の指示に違反して残業をした場合には、残業代の支払いは不要と考えられます。
東京高裁平成17年3月30日判決の事案では、音楽専門学校の元従業員が、学校側に対して未払い残業代を請求しました。
東京高裁は、従業員が学校側の指示に反して残業をしたことを認定し、未払い残業代の請求を退けました。
その理由として、東京高裁は以下の各点を挙げています。- 36協定(=時間外労働および休日労働に関する労使協定)が締結されていなかった
- 学校側が従業員に対して、朝礼などを通じて残業は禁止である旨を繰り返し指示していた
- 学校側が従業員に対して、勤務時間内に業務が終わらないときは、管理職に引き継ぐよう指示していた
上記裁判例のように、会社が従業員に対して残業禁止の旨を明確に指示していれば、それに反して行われた残業に対して、残業代を支払う必要はないと考えられます。
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(2)会社が残業を黙認している場合は、残業代が発生する
これに対して、従業員が勝手に残業していることを会社が黙認している場合は、その時間が労働時間に当たり、残業代が発生する可能性が高いです。
会社が無断残業の事実を把握しているにもかかわらず、それを解消しようとせずに放置している場合は、残業を黙認していると判断されるおそれがあります。
また、勤務時間に比べて業務量が多すぎるなど、持ち帰り残業が避けられないような働き方を従業員に課している場合も、会社が残業を黙認していると判断されるリスクが高いと考えられます。
このような事態を避けるため、従業員が勝手に残業していることを会社が把握した場合には、速やかにその解消のための措置を講じましょう。
4、残業の取り扱いに関する疑問点は弁護士に相談を
従業員による無断残業への対応や、その他の残業の取り扱いについて疑問や不安がある場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
人事・労務管理について豊富な知見を有する弁護士に相談すれば、労働基準法その他の法令を踏まえた適切な対応について、具体的なアドバイスを受けられます。
人事・労務管理を含めて、企業経営について日常的にリーガルアドバイスを受けたい場合は、弁護士と顧問契約を締結するのがおすすめです。顧問弁護士と契約すれば、疑問点やトラブルが生じた際に、いつでも法的な意見を求めることができます。
5、まとめ
会社の許可を得ず勝手に残業をする従業員に対しては、懲戒処分を行うことができる場合があります。
ただし、懲戒処分を行う際には法律上の要件を満たす必要があり、懲戒処分の重さについても慎重な検討が必要です。残業代の支払いの要否も含めて、事前に弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。勝手に残業する従業員への対応に悩んでいる企業や、顧問弁護士をお探しの企業は、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスにご相談ください。
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