就労請求権とは? 認められるケースや会社としての対応を紹介
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令和4年度に広島県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は2万6901件でした。
使用者に雇用されている労働者(従業員)は、使用者のために労働する義務を負います。その一方で、労働者が「使用者に対して就労させることを請求する権利(=就労請求権)」を有しているかどうかについては、法律の規定上必ずしも明確ではありません。
労働者が「自分には使用者に対して就労させることを請求する権利がある」と主張してきた場合、会社としてはどのように対処すべきなのでしょうか? 本記事では、労働者の就労請求権について、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。
1、就労請求権とは
「就労請求権」とは、労働者が使用者に対して就労させることを請求する権利です。
労働者は雇用契約に基づき、使用者のために労働する義務を負います。その一方で、労働者が使用者に対して就労請求権を有するか否かについては、法律の規定上必ずしも明らかではありません。
就労請求権が認められる場合には、使用者側から見れば、労働を受領する義務(=労働受領義務)があることになります。この場合、労働者の請求に反して労働を認めないと、労働者に対して債務不履行に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
これに対して、就労請求権が認められない場合には、使用者の判断によって労働者から提供された労働力を使用しないこともできます。
ただし、労働者が働いていない期間も、原則として賃金を支払う必要はあります。
このように就労請求権の有無は、使用者の判断で労働者から提供された労働力を使用しないことができるか否かという形で問題となります。
2、就労請求権は認められないのが原則
法律の明文規定はないものの、就労請求権は認められないのが原則と解されています。
東京高裁決定昭和33年8月2日では、新聞社に大学新卒で採用された後に半年で解雇された労働者が、新聞社に対して就労妨害排除などを求める仮処分を申し立てた事案が問題となりました。
東京高裁は、労働契約における基本的な法律関係を以下の2点であると指摘し、原則として労働者の就労請求権は認められない旨を判示しました。
- 労働者が、使用者の指揮命令に従って労務を提供する義務を負うこと
- 使用者は労務の提供に対して、労働者に一定の賃金を支払う義務を負うこと
労働者にとって、労働することは単に賃金を得るだけでなく、スキルの向上や自己実現などの目的を有する側面があることは否めません。
しかし裁判実務上は、スキルの向上や自己実現などの要素は、原則として雇用関係における本質的要素ではないと解されています。
労働者が使用者の判断で働かせてもらえなかった場合に、その期間の賃金は請求できますが、就労請求権を害されたことを理由とする損害賠償は原則として請求できません。
3、就労請求権が例外的に認められるケース
労働者の就労請求権は原則として認められませんが、以下の2つの場合には、例外的に就労請求権が認められることがあります。
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(1)労働契約等に特別の定めがある場合
労働契約や就業規則などにおいて、労働者の就労請求権を明示的に認める旨が定められていれば、その定めに従って就労請求権が認められます。
契約自由の原則に基づき、当事者の合意があればそれを尊重するという考え方です。
また、労働契約や就業規則などに就労請求権を認める明示的な規定が存在しなくても、使用者と労働者の間で黙示の合意が認定され、就労請求権が肯定されるケースもあります。
たとえば仙台地裁判決平成9年7月15日では、大学教員が大学において学問研究を行う雇用契約上の権利を有することにつき、大学側と大学教員の間の黙示的な合意が認定されました。
その理由として仙台地裁は、就業規則において学問研究を行うことが明確に予定されていた点などを挙げています。 -
(2)労務の提供について、労働者が特別の合理的な利益を有する場合
使用者に対して労務を提供することにつき、労働者が特別の合理的な利益を有する場合にも、労働者の就労請求権が認められると解されています。
たとえば名古屋地裁判決昭和45年9月7日では、調理人が使用者に対して就労を請求した事案が問題となりました。
名古屋地裁は、調理人としての技量は短期間でも職場を離れると著しく低下することなどを指摘して、調理人の就労請求権を認めました。
4、労働者に就労請求権を主張された場合の対処法
自宅待機命令などを受けた労働者が、「自分には会社で働く権利がある」などといって就労請求権を主張してきたら、会社としては、以下の方法によって対処しましょう。
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(1)労働契約等の内容を確認する
まずは雇用契約書や就業規則を確認し、定められている条項や労働条件を隅々までチェックしましょう。
労働者の就労請求権を明示的に認める条項が定められていれば、労働を希望する労働者を働かせなければなりません。
また、大学において学問をする権利など、憲法上重要な労働者の権利が関わる場合には、雇用契約書や就業規則における明文規定がなくても、契約等の解釈によって就労請求権が認められることがある点に注意が必要です。 -
(2)労務の性質について検討する
労務の性質に鑑み、その提供について労働者が特別の合理的な利益を有する場合には就労請求権が認められ、労働を希望する労働者を働かせなければなりません。
労務の性質に応じた就労請求権が認められるかどうかは、以下のような要素を考慮して判断される傾向にあります。- 労働から離れることによって、労働者のスキルが低下する幅やスピード
- 労働から離れることによる不利益を回復することができる別の方法の有無
上記の要素などに照らして、労務の性質を具体的に検討し、就労請求権が認められるかどうかを法的に判断しましょう。
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(3)働かせないことがパワハラに当たらないかどうかを検討する
就労請求権の問題とは別に、労働者を働かせないことがパワハラ(パワー・ハラスメント)に当たらないかどうかも検討しなければなりません。
パワハラとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えており、労働者の就業環境を害するものをいいます(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。
労働者の能力に見合った仕事を与えないことや、全く仕事を与えないことは、業務上の必要性および相当性が認められない限りパワハラに該当する可能性が高いです。
パワハラを防止するための措置を講じていない事業主は、厚生労働大臣による勧告や公表処分などの対象となります(同法第33条)。労働者に自宅待機などを命ずる際には、その目的が必要かつ相当であるかどうかを慎重に検討しましょう。 -
(4)弁護士に相談する
就労請求権を主張する労働者への対応に困っている場合は、早めに弁護士へ相談しましょう。
弁護士に相談すれば、就労請求権に関する法律上の取り扱いを踏まえて、会社としてリスクを抑えながら対応するためのポイントについてアドバイスを受けられます。また、労働者が労働審判や訴訟などの法的措置を講じてきた場合には、代理人としての対応を弁護士に依頼することも可能です。
労働者とのトラブルを穏便に解決するためには、経験豊富な弁護士のサポートが大いに役立ちます。就労請求権に関するトラブルにお悩みの企業は、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
労働者の就労請求権は、原則として認められません。したがって会社は、状況に応じた判断により、自宅待機などを命じて労働者を働かせないこともできます。ただし、労働者が就労しない期間も賃金を支払う必要はあります。
また、労働契約等に特別の定めがある場合や、労務の提供について労働者が特別の合理的な利益を有する場合には、例外的に就労請求権が認められることもあるので注意が必要です。
就労請求権を主張する労働者への対応に困っている場合には、速やかに弁護士へ相談してアドバイスを受けましょう。
ベリーベスト法律事務所は、労働問題・労働事件に関する企業のご相談を随時受け付けております。実績ある弁護士が、クライアント企業にとってのリスクを抑えられるように、親身になってサポートいたします。就労請求権を含む人事・労務の問題についてお悩みの企業は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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