弁護士が教える取締役の義務や法的責任、怠った場合に起こること
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会社員のなかには、「将来的に取締役へとキャリアアップしたい」と考えている方もおられるでしょう。また、実際に取締役の地位を会社から提案されている方もおられると思われます。
取締役は、会社にとって重要なポストです。そのため、取締役に就任することによって、これまでとは異なる責任が生じることになります。
したがって、取締役への就任を考えている方は、就任することによって生じる責任やリスクについて理解しておくようにしましょう。本コラムでは、取締役に就任した場合の法的な責任やリスクについて、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。
1、取締役になったら変わること
以下では、従業員から取締役になった場合に生じる変化について解説します。
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(1)契約形態の違い
取締役と従業員とでは、会社との間の契約形態が異なります。
従業員は、会社との間で雇用契約を締結していますが、取締役は会社との間で委任契約を締結しています。
また、従業員は、労働基準法によって、労働時間、休日、賃金、年次有給休暇などの保護を受けることができ、雇用保険や労災保険などの適用を受けることができます。
しかし、取締役は法律上の「労働者」としては扱われないために、労働基準法による保護は及ばず、雇用保険や労災保険などの適用もされないのです。 -
(2)取締役の義務
取締役になった方は、従業員とは異なるさまざまな義務を負うことになります。
そのなかでも代表的なものが「善管注意義務」と「忠実義務」です。
善管注意義務とは、善良なる管理者としての注意義務のことです。
具体的には、会社から経営を委任された者として、会社に損害を及ぼすことがないように注意する義務をいいます。
忠実義務とは、取締役が法令、定款、株主総会決議を遵守して、会社のために忠実に職務を行う義務のことをいいます。
もし取締役が善管注意義務や忠実義務などに違反して、会社に損害を及ぼした場合には、後述するような賠償責任を負う可能性があります。 -
(3)解任のリスク
従業員を解雇する場合には、労働契約法による厳格な解雇規制が及びます。
そのため、客観的合理的な理由があり、解雇が社会通念上相当であるといえる場合でない限りは、不当解雇となります。
これに対して、取締役は、任期の途中であっても株主総会決議によって、いつでも解任される可能性があります。
また、取締役の解任にあたっては、従業員の解雇のような正当な理由は要求されませんので、どのような理由であっても解任される可能性があるのです。
2、取締役の責任1:会社に対する責任
以下では、取締役が会社に対して負う責任について詳しく解説します。
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(1)善管注意義務・忠実義務
前述した通り、取締役は、会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っています。
会社から経営を任された者として、適切な経営判断を求められるとともに、他の取締役や従業員を監視・監督することによって違法行為を防止するという責任があるのです。 -
(2)競業避止義務
取締役は、自己または第三者の利益を図るために、会社と競業する取引を行おうとする場合には、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認を受ける必要があります。
これを「競業避止義務」といいます。 -
(3)利益相反取引回避義務
取締役は、自己または第三者の利益を図るために、会社と取引する場合または会社が取締役の債務の保証をするような場合には、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認を受ける必要があります。
これを「利益相反取引回避義務」といいます。 -
(4)損害賠償責任
取締役が上記の義務に違反して会社に対して損害を及ぼした場合には、会社に対してその損害を賠償する責任を負います。
3、取締役の責任2:第三者に対する責任
以下では、取締役が会社以外の第三者に対して負う責任を解説します。
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(1)損害賠償責任
取締役と会社との間には、委任契約に基づいて、前述したようなさまざまな義務が生じます。
そして、それらの義務を怠った場合には、損害賠償責任を負う可能性があります。
一方で、取締役と第三者との間には何も契約関係がないため、「特に責任を負うことはないだろう」と考えられる方もおられるかもしれません。
しかし、企業は社会において重要な地位を占めており、企業の活動が取締役によって行われることを考慮して、第三者を保護するために、会社法では取締役の第三者への損害賠償責任が定められています。
なお、損害を被った第三者は、民法709条に基づいて損害賠償を請求することもできますが、会社法上の損害賠償責任は、民法上の損害賠償責任の特則という位置づけになります。 -
(2)第三者から取締役への損害賠償請求の要件
第三者が取締役に対して損害賠償を請求するためには、会社法429条1項で規定されている、以下の要件を満たす必要があります。
① 職務についての任務懈怠
取締役の第三者に対する損害賠償責任は、取締役が法令または定款で負っている義務に違反したことに対する損害賠償責任となります。
そのため、第三者が取締役に対して損害賠償請求をするためには、取締役による任務懈怠行為(任務を怠る行為)が存在することが必要になります。
② 悪意または重大な過失
民法709条の不法行為責任は、加害行為自体に対して故意または過失が要求されていますが、会社法429条1項では、取締役の任務懈怠に対する悪意または重大な過失が要求されます。取締役が任務懈怠行為であることを認識している場合や、著しい不注意によって任務懈怠行為をした場合に、損害賠償請求が可能となります。
③ 損害の発生
会社法429条1項の損害には、第三者が直接損害を被った場合(直接損害)だけでなく、取締役の任務懈怠によって会社が損害を受けた結果、第三者に損害が及んだ場合(間接損害)も含まれます。
4、責任を怠った場合はどうなるか
取締役が責任を怠った場合には、以下のような責任を追及される可能性があります。
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(1)会社に対する責任を怠った場合
取締役が会社に対する責任を怠った結果、会社に対して損害を生じさせた場合には、会社から取締役に対して損害賠償請求がなされる可能性があります。
もっとも、取締役は、迅速な経営判断を求められる立場にあるため、不確実な状況で判断をしなければならない場面もあります。
そのため、取締役がした決定が結果として会社に損害を与えるようなものであったとしても、そのことだけで責任追及を認めてしまうと、取締役の業務執行が萎縮して、積極的な経営判断をためらってしまう可能性があります。
したがって、取締役への損害賠償を請求するにあたっては、以下の2点を考慮したうえで、取締役が十分な注意を尽くしていたかどうかが判断されることになるのです(経営判断の原則)。- 経営判断の前提事実について十分な調査、情報収集が行われたか
- 意思決定の過程、内容に著しく不合理な点がなかったか
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(2)第三者に対する責任を怠った場合
取締役が悪意または重大な過失による任務懈怠行為によって第三者に損害を与えた場合には、第三者から損害賠償請求を受ける可能性があります。
この場合にも会社からの損害賠償請求の場合と同様に、経営判断の原則が適用されます。
したがって、第三者に損害を及ぼしたとしても、経営上与えられている裁量の範囲内であれば、責任は否定されることになるのです。 -
(3)会社が倒産をした場合
会社の経営がうまくいかない場合には、多額の債務を背負った状態で倒産をしてしまうこともあります。
会社と取締役とは、法律上は別人格とされていますので、会社が倒産をしたとしても、会社役員が個人的に責任を負うということは原則としてありません。
ただし、中小企業では、会社の債務を代表取締役が経営者保証をしている場合もあります。このような場合には、取締役は、保証債務を負うことになります。
したがって、会社が倒産した場合には、保証人として会社の債務を支払っていかなければならないのです。
5、不安があるなら弁護士へ相談を
取締役の立場に就任することについて不安をお持ちの場合には、弁護士に相談してください。
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(1)法的観点から適切なアドバイスを受けることができる
取締役への就任を打診された方のなかには、「どのような責任やリスクを負うかわからないために、すぐに返事ができない」という方もおられるでしょう。
弁護士であれば、取締役に就任することによってどのような責任が生じるのか、どのようなリスクがあるのか、といった点について適切にアドバイスすることができます。 -
(2)リスクを回避するためには顧問弁護士の利用も有効
取締役は、会社に対してさまざまな責任を負っています。
会社や第三者から責任を追及されるリスクを軽減するためには、法律の専門家である弁護士のアドバイスが有効です。
顧問弁護士を利用することによって、日常的に気軽に相談することが可能になりますので、取締役が直面する法的リスクを軽減することができるでしょう。
6、まとめ
取締役は、さまざまな責任を負う立場です。
もし判断を誤り会社や第三者に損害を与えてしまった場合には、損害賠償請求を受けるリスクもあります。
取締役に就任を決断する前に、取締役の立場に伴う責任やリスクについてしっかりと理解しておきましょう。
「会社から取締役への就任を打診されたが、不安がある」といったお悩みをお持ちの方は、まずはお気軽に、ベリーベスト法律事務所までご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています