給料が減った際の対処法は? 違法か確認するポイントを弁護士が解説
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会社の業績不振などを理由に「給料が減った」場合、従業員としては反対することはできないのでしょうか。
一般的に、給料の減額は、従業員の生活に大きな影響を与えます。そのため、会社が従業員の合意なしに一方的に給料の減額を決定することは、違法とみなされる可能性が高くなります。
この記事では、給料が減る理由や違法性を判断するためのポイント、給料が減った場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士がわかりやすく解説していきます。
1、給料が減額される理由と違法ポイント
原則として、会社と締結している労働契約については、労働者と使用者の双方の合意がない限り、労働条件を変更することはできません(労働契約法第8条)。
したがって、従業員本人との合意がなければ、原則として給料を勝手に減額することはできません。会社の業績や経営状況が悪化したからといって一方的に給料額を変更することは原則として違法です。
一般的に、給料を減額することができる理由としては、以下のようなものが挙げられます。
- 従業員との合意がある
- 懲戒処分としての減給・降格
- 職能資格制度における降格
- 給料の査定条項に基づく減額
ただし、社会保険料によって給料が減る場合もありますし、上記4つの理由があっても違法な可能性もあります。以下、詳しく解説します。
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(1)給料減額の理由1│社会保険料
社会保険料や税金などの影響で手取りの給料が減った可能性もありますので、「給与が減った?」と思った場合は、まずは給与明細を確認することをおすすめします。
毎月の給与から控除される社会保険料は、原則として、毎年4・5・6月の3か月間の給料額の平均(標準報酬月額)をもとに決定されます。決定された社会保険料は10月に支給される給料から1年間適用されることになります。
社会保険料の決定には、基本給・役職手当のみならず、残業手当・休日出勤手当なども含まれてしまうため、前年よりも給料からの差し引きが大きくなるケースがあるのです。 -
(2)給料減額の理由2│従業員との合意がある
労働契約法の合意原則に従えば、従業員の合意があれば給料を引き下げることができます。
しかし、会社と従業員の力関係に照らして、従業員の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要です。
たとえ給料の引き下げを受け入れる旨の従業員の行為があったとしても、以下の点があれば違法の可能性があります。- 減額される金額が大きすぎる
- 同意せざるを得ない経緯・事情がある
- 会社からの情報提供・説明が不十分
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(3)給料減額の理由3│懲戒処分
懲戒処分として減給や降格がなされることがあります。
ただし、懲戒処分を行うためには、使用者に懲戒処分を行う権限があることが必要です。就業規則等の懲戒事由に該当しておらず、または「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には権利濫用として無効となります(労働契約法第15条)。
懲戒処分を理由としても、以下のポイントがあれば違法の可能性が高いといえます。- 減給という懲戒の種別が不存在
- 就業規則に懲戒事由が不存在
- 規律違反の程度が軽微である
- 減額される額が大きすぎる
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(4)給料減額の理由4│職能資格制度の降格
職能資格制度において、資格・等級の引き下げ(昇格の反対)が行われ、降給されることがあります。
しかし、一度達成した職務能力が下がることは、通常はあまりないことといえます。そのため、職能資格制度における降格ならびに降給は、会社が一方的に行うことは認められず、従業員との合意があるか、就業規則に明確な根拠と相当の理由がなければなりません。
職務資格制度の降格ならびに降給が、違法とされるポイントは以下の通りです。- 従業員との合意がない
- 就業規則等に明確な根拠がないこと
- 降格に相当な理由がないこと
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(5)給料減額の理由5│給料の査定条項
会社によっては、給料を固定給とせず、査定により決定するとしていることがあります。
そのような場合であっても、就業規則等に降給の規定がなかったり、降給の決定過程に合理性がなかったり、決定過程が従業員に告知されていなかったり、公正な手続が存在していなかったりする場合には、降給が違法となる可能性があります。
給料の査定条項による減給が違法とみなされる主なポイントは、以下の通りです。- 就業規則等に降給の規定がないこと
- 降給決定過程に合理性がないこと
- 過程が告知され言い分を聞く手続きがないこと
- 評価の過程に不合理・不公正な事情があること
2、違法に給料が減った場合の対処法
給与の減額が違法だと確認できたら、適切な金額を請求するため、以下の方法で手続きを進めていきましょう。
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(1)有利な証拠を集める
給料を満額請求するためには、まずは有利な証拠を集めることが重要です。
特に、雇用される際の雇用契約書・雇用条件通知書や、就業規則・賃金規程、給与明細書などは、給料の支払いを求める従業員の請求の根拠となる可能性が高いため、入手しておく必要があります。 -
(2)内容証明郵便で差額分の支払いを求める
給料の減額が違法である場合には、差額分の給料の支払いを会社に請求することができます。
差額分の給料の支払いを請求するためには、内容証明郵便を利用することがおすすめです。内容証明郵便を利用すると、送付した文書の内容や差出人・名宛人が郵便局によって公的に証明されます。郵便局の窓口で、比較的安価な価格で利用できます。 -
(3)労働審判・訴訟を申し立てる
会社に内容証明郵便を送付しても支払いに応じない場合、裁判所に労働審判を申し立てることもできます。労働審判は短期間で紛争を解決しようとする制度であるため、3か月程度で終わります。
労働審判の結果について、労働者と使用者のどちらか一方に不服がある場合には、異議を申し立て、訴訟に移行することになります。ただし、訴訟手続きでは当事者双方が証拠に基づき主張と立証を尽くすことになるため、半年から1年以上に及ぶ可能性があります。
3、給与減額が問題になった裁判例を解説
以下、給与減額についての裁判例(札幌高等裁判所 平成24年10月19日判決)を紹介します。
Y社の経営するホテルに料理人として平成19年2月に採用されたXの基本賃金年額はおよそ620万円でした。
しかし、同年4月、マネージャーから500万円に減額する旨の提案を受け、Xは、「ああ分かりました」などと返答(本件応答)し、Y社は同年6月から基本給22万4800円、職務手当15万4400円を支払うようになりました。Xは、賃金減額が不当である旨抗議はせず、Y社から支払われる賃金を受領していました。
平成20年4月になって、Y社から減額された賃金が記載された労働条件確認書に署名・押印するように求められ、Xはこれに応じました。
しかしXは、賃金減額の同意がないのに減額されたと主張して、未払い賃金の支払い等を求めて訴えを提起しました。
この事件に対して裁判所は以下のように判示しています。
「賃金減額の説明ないし提案を受けた労働者が、これを無下に拒否して経営者の不評を買ったりしないよう、その場では当たり障りのない応答をすることは往々にしてあり得る一方で、賃金の減額は労働者の生活を大きく左右する重大事であるから、軽々に承諾できるはずはなく、そうであるからこそ、多くの場合に、労務管理者は、書面を取り交わして、その時点における賃金減額の同意を明確にしておくのであって・・・、賃金減額に関する口頭でのやり取りから労働者の同意の有無を認定するについては、事柄の性質上、そのやり取りの意味等を慎重に吟味検討する必要があるというべきである。・・・(Xの本件応答は、)「会社からの説明は分かった」という程度の趣旨に理解するのが相当である。したがって、この応答をもって、年額124万円余りの賃金減額に被控訴人が同意したと認めることはできない」
ただし、Xは平成20年4月の時点で、賃金減額について自由な意思で同意したと認定されています。
本判決は、Xの本件応答について、採用から2か月後のものであることを考慮して減額への同意がなかったと判断した一方で、その1年後の労働条件確認書が交わされたときには、「自由な意思」による同意があったと判断しています。
4、労働トラブルに関して弁護士に相談するメリット
労働問題は、個人で企業にかけあっても、スムーズに進まないことが珍しくありません。弁護士のサポートを受ける具体的なメリットを解説します。
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(1)未払いの給料を回収しやすくなる
弁護士に相談することで、未払いとなっている給料をスムーズに回収することが期待できます。ご自身で対応しようとしても、給料の減額が違法なのかどうかの判断ができないおそれがあります。
しかし、労働問題を取り扱っている弁護士に相談することで、給料減額が違法であることや、その根拠、また適切な給料の回収方法などについても、具体的なアドバイスを受けることができます。 -
(2)会社側と代理で交渉してくれる
弁護士に減額された分の給料の回収を依頼すると、それ以降の手続きについてはすべて弁護士が対応します。まずは、従業員側の主張を根拠づけるために集めていただいた証拠の整理・検討や、会社側に対する請求についても弁護士に一任しておくことができます。
従業員個人と会社とは専門的な知識や交渉力に大きな差がありますので、弁護士に交渉を代行してもらうことでスムーズにトラブルを解決できる可能性が高まります。 -
(3)法的な手続きを代理してもらえる
話し合いでは解決できない場合には、労働審判や訴訟など法的な手続きに移行する必要があります。そのような場合でも、弁護士に依頼することで、スムーズに裁判手続きに移行することができます。書面や証拠の提出、期日での発言などはすべて弁護士が行うため、本人の手続き的な負担はかなり軽減されるでしょう。
5、まとめ
本人との合意なしに給料を減額した場合には、違法となる可能性があります。そのため、給料が減額された場合には、会社側に減額した理由と根拠を確認することが大切です。
また、給料の減額が違法かどうか判断できない場合や、会社との交渉を任せたいという場合には、労働事件の実績がある弁護士に相談するようにしましょう。
ベリーベスト法律事務所 福山オフィスには、労働トラブルの解決実績がある弁護士が在籍しております。一方的な給与の減額など労働問題に関してお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
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