相続人が兄弟姉妹のみのとき相続はどうなる? 相続時の注意点を解説
- 遺産を受け取る方
- 相続人
- 兄弟のみ
令和3年3月に福山市が公表した「福山市人口将来展望分析」によれば、2015年の福山市において、50歳までに婚姻経験がない方の割合(生涯未婚率)は、男性が22.4%、女性が12.7%でした。昨今では「結婚離れ」といわれる傾向が全国的にも進んでいることが報道されています。
配偶者や子どものいない方が死亡されたとき、その遺産は兄弟姉妹によって相続される場合があります。兄弟姉妹による相続は、相続人の権利が一部制限されたり、相続人の調査などで手間がかかったりするなど、夫婦間や親子間の相続とは異なる点が存在します。
本コラムでは、相続人が兄弟姉妹のみの遺産相続におけるルールや注意点、困ったときの対処法について、弁護士が解説します。
1、相続人が兄弟姉妹のみになるケース
遺産相続において、だれが遺産を受け取る人(相続人)になるかは、亡くなった方(被相続人)との親族関係により決まります。
以下では、遺産相続における兄弟姉妹の立ち位置や、他の親族との関係性について解説します。
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(1)兄弟姉妹は「第3順位」の相続人
民法では、相続人となる親族の範囲を次のように定めています。
- 配偶者(常に相続人となる)
- 子(第1順位)
- 直系尊属(第2順位)
- 兄弟姉妹(第3順位)
配偶者の相続権は、相続の対象となる方(被相続人)が亡くなった時点における法律上の婚姻関係によって判断されます。
過去に婚姻していた元配偶者や内縁関係のパートナーは、配偶者としての相続権を持ちません。
兄弟姉妹は「第3順位」の相続人であるため、第1順位や第2順位の親族で相続人となるべき人が一人もいない場合には相続人になります。 -
(2)兄弟姉妹より優先する相続人
兄弟姉妹より優先される第1順位や第2順位の相続人について、解説します。
- 子(第1順位)
夫婦間に生まれた子だけではなく、認知した婚外子や養子も「子」として第1順位の相続人となります。
亡くなった方に婚姻歴がない場合でも、過去に子を認知したり養子縁組したりしている可能性があるため、これらの事実の有無を戸籍により確認する必要があるのです。
なお、被相続人の子が被相続人より先に亡くなっている場合、孫やひ孫が子に代わって相続人となります。これを「代襲相続」といいます。
- 直系尊属(第2順位)
直系尊属とは、父母や祖父母など親子関係で連なる上の世代の親族のことです。
養子縁組した養親も直系尊属となり、第2順位の相続人となります。
被相続人が高齢で亡くなったという事例では、さらに年齢が上である直系尊属の方もすでに他界している場合も多いでしょう。
「第1順位」や「第2順位」の相続人がいないという事実は、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍や、直系尊属が亡くなった時の戸籍によって確認することができます。
また、相続人となる配偶者の有無も、被相続人が亡くなった時の戸籍を見れば確認できます。
- 子(第1順位)
2、相続人となる兄弟姉妹とは? おいやめいは代襲相続人になる?
第1順位や第2順位の相続人がいないことが確認したら、次に、第3順位の相続人となる兄弟姉妹は自分だけであるか、他にも存在するか、ということを確認する必要があります。
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(1)相続人となる兄弟姉妹とは?
相続人となる兄弟姉妹は、「被相続人と両親または一方の親が共通する親族」です。
つまり、被相続人の親が生涯でもうけた子や、さらに養子縁組が存続している養子が、兄弟姉妹として相続人になります。
一方の親が共通する親族とは、離婚や再婚によって異なる配偶者との間に生まれた子や、婚姻関係にない異性との間で生まれた子のことです。「半血兄弟姉妹」ともいいます。
なお、普通養子縁組により養子に出された兄弟姉妹も、実の親との親子関係はなくならないため、兄弟姉妹として相続人となります。
したがって、第3順位の相続人が誰であるかということを判断するためには、父母の存命中の戸籍を調べて、親子関係にある子をすべて確認する必要があるのです。 -
(2)兄弟姉妹が先に亡くなった場合はおい・めいが代襲相続する
「第3順位」の相続でも代襲相続は一代に限り発生します。
つまり、被相続人より先に亡くなった兄弟姉妹がいる場合、その子(被相続人のおい・めい)までが代襲相続人となるのです。
この場合、先に亡くなった兄弟姉妹の存命中の戸籍をすべて調べて、代襲相続人の有無を調べる必要があります。 -
(3)相続分はどうなる?
複数の兄弟姉妹が相続人となる場合、相続分は人数で均等になります。
ただし、半血兄弟姉妹の相続分は半分になるため、相続人Aと相続人BのうちBが半血兄弟姉妹の場合は、Aの相続分は「3分の2」、Bの相続分は「3分の1」となります。
また、代襲相続人は被代襲者の相続分を引き継ぎます。
例えば、Aと先に亡くなったBの子C・Dが相続人となる場合、Aの相続分は「2分の1」、C・Dの相続分は「4分の1ずつ」です。
3、相続人が兄弟のみ場合に注意したい点
以下では、兄弟姉妹が相続人となった場合に特に注意すべき点について解説します。
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(1)相続人・財産・債務の調査に時間と手間がかかる
兄弟姉妹やおい・めいが相続人となる場合は、「戸籍の束」とも表現されるような分量の戸籍謄本などを取り寄せることになります。
また、それぞれ独立して生活している兄弟姉妹間では、資産の内容や債務の状況などがまったく分からない状態から調べることになるでしょう。
なお、調査を進めるうちに借金などの債務が多いという事実が判明した場合には、相続放棄などの手続きを検討することになります。
相続放棄など債務の相続を免れる手続きは、原則として相続の開始から3カ月以内に行う必要があるため、ゆっくり時間をかけて調査するわけにもいかない点にも注意してください。 -
(2)相続税が2割加算される
相続税の課税対象となる場合、相続人は相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に相続税の申告と納付をしなければなりません。
また、兄弟姉妹が相続人となる場合、相続税の税額が2割加算されます。
相続は遺族の生活を保障するために行われるものでもありますが、子に比べると兄弟姉妹への相続が発生する確率は低く、兄弟姉妹の生活を遺産によって保障する必要性は低いことから、相続税が割高になってしまうのです。
もし遺産分割が終了していなくても相続税は納付しなければならないため、納税資金の準備についても考えておきましょう。 -
(3)特別寄与料が請求される可能性も
令和元年より、「特別寄与料」という制度が新たに設けられました。
被相続人の療養看護や介護に無償で尽力して、被相続人の財産の維持または増加に寄与した親族は、相続人に対して金銭の請求ができるという制度です。
特別寄与料が請求できる親族は、6親等以内の血族と3親等以内の姻族とされており、遠縁の親族にも請求権があります。
特別寄与料の請求期限は、相続の開始及び相続人を知ったときから6カ月以内または相続開始から最大1年以内とされています。
亡くなられた方が独身である場合、介護などをしていた遠縁の親族から特別寄与料が請求される可能性があることを認識しておいたほうがよいでしょう。 -
(4)遺言がある場合
故人が遺言を残している場合、基本的には、遺言で指定されたとおりに財産を配分することになります。
このとき、遺言で遺産を受け取れることを指定されていない相続人であっても、「遺留分」という権利に基づいて、遺産から最低限の財産を請求できる場合があります。
しかし、兄弟姉妹には、遺留分の権利がありません。
したがって、遺言の内容によっては、まったく遺産を受け取れない可能性もあるのです。 -
(5)借金などの債務がある場合
遺産相続においては、借金などの債務について、特に注意が必要になります。
借金などの債務は、原則として、相続分に応じて各相続人に承継されます。
遺言や遺産分割協議により債務を負担する人を指定することも可能ですが、債権者の承諾が得られなければ、相続分に応じた請求を拒むことはできません。
また、「遺産の全部をXに遺贈する」というように、遺産の全部または一定割合を包括的に遺贈するという内容の遺言があった場合には、その受遺者は相続人として扱われることから、債務も承継することになります。
遺言がある場合は、遺言で指定されている内容や文章の表現によって、債務の帰属先が異なる場合もあります。
判断に迷った場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。
4、相続のサポート役は弁護士が適任な理由
以下では、相続人となった際に負担が生じる要因を、弁護士のサポートを受けることでそれらの負担を解消できることについて、解説します。
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(1)相続手続きに割く時間がない
相続手続きには、さまざまな場面で期限が存在します。
そのため、手続きを進める際には、以下のような期限を念頭に置いたうえで、早急に対応しなければなりません。- 相続放棄、限定承認の期限(3カ月以内)
- 被相続人の準確定申告、納付(4カ月以内)
- 相続税の申告、納付(10カ月以内)
被相続人に借金などの債務が多い場合には、相続放棄や限定承認を検討することになります。
その際には、手続きの期限となる3カ月以内に、財産や債務の全容を把握する必要があります。
また、被相続人に所得があった場合は、通常の確定申告とは異なり、4カ月以内に準確定申告を行い納税しなければなりません。
さらに、相続税が課税される場合は、遺産分割が未了であっても、10カ月以内に法定相続分に応じた税額をいったん納付しなければならないのです。
相続のために時間が取れないという方は、早い段階で弁護士のサポートを受けることで、相続の手続きを速やかに進めることができます。 -
(2)相続人同士の対立への対応
普段交流がない親族同士が相続人になると、「遺産や遺言書を隠しているのではないか」というような疑念を抱いて、感情的な対立が生じるおそれがあります。
また、手続きに非協力的な相続人がいたり、自身の経済的利益に固執したりする相続人がいたりするなど、相続においてはさまざまなトラブルが生じる可能性があるのです。
弁護士であれば相続トラブルについても、法律の専門知識と豊富な交渉経験について、穏便に対応することができます。
トラブルが生じてしまった場合には、弁護士に交渉を委任しましょう。 -
(3)法律問題への対応
相続の手続きを円滑に進めたり、利害対立を解決したりするためには、一定の法律知識が必要になります。
法律に関する問題は、「法律を知らなかった」では済まされないことが多く、特に相続では「多額の債務を相続してしまう」など、相続人の不利益となる事態が発生する可能性もあります。
法律の専門家である弁護士に相談すれば、生じる可能性のあるリスクやトラブルについて、事前の対応で予防することができます。
また、家庭裁判所を利用する際にも、弁護士を代理人として、手続きを委任することができ流のです。
5、まとめ
兄弟姉妹が相続人となるケースでは、被相続人や相続人同士の関係が希薄なものとなっている場合も多く、相続人や財産、債務の調査や遺産分割が難航しがちです。
「忙しいから相続の処理は後回しにしたい」「できれば手続きには関わりたくない」と思っていたとしても、法律上の相続人となったなら、各種の期限を意識しながら手続きを進めなければなりません。
ベリーベスト法律事務所には弁護士のほかにも税理士や司法書士が所属しており、相続に関する手続きをトータルにサポートすることができます。
相続に関してお悩みの方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
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