相続財産にある借金は相続放棄で解決可能? 後から借金が発覚した場合は?
- 相続放棄・限定承認
- 相続放棄
- 借金
もし亡くなった被相続人が多額の借金を負っていた場合には、借金の相続を回避するため、相続放棄を行うことを検討しましょう。
なお、福山市に住所があった方が亡くなられて、相続放棄を行う場合は、三吉町にある広島家庭裁判所 福山支部で手続きを行えます。
ただし、相続放棄をする際には、残った借金の取り扱いや期限などの注意点があります。そこで本コラムでは、相続放棄の概要や注意点などをベリーベスト法律事務所 福山オフィスの弁護士が解説します。
1、被相続人の借金は相続放棄で解決可能
亡くなった被相続人の借金は、何もしなければ相続人が引き継いで支払わなければなりません。
しかし、相続放棄をすれば、被相続人の借金を相続せずに済みます。
-
(1)相続放棄とは
「相続放棄」とは、自己に対する相続の効果を消滅させる意思を表示することです。
相続放棄をすると、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法第939条)。結果として財産だけでなく債務も相続しないことになるため、被相続人の借金の相続を回避することができます。 -
(2)相続放棄の手続き
相続放棄は、家庭裁判所に対して申述書などを提出して行います。
相続放棄の必要書類は以下のとおりです(被相続人の配偶者または子が相続放棄をする場合。それ以外の方が相続放棄をする場合は、必要書類が異なります)。- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
裁判所に必要書類を提出してしばらくすると、裁判所から照会書面が送られてきます。照会の目的は、相続放棄ができない場合に当たらないかどうかを確認することです。
照会に対する回答を裁判所に返送し、無事に相続放棄が受理されると、裁判所から相続放棄受理通知書が送られてきます。
これで、相続放棄の手続きは完了です。 -
(3)相続放棄以外の選択肢|限定承認・単純承認
相続放棄のほかにも、相続については「限定承認」や「単純承認」を選択することができます。
① 限定承認(民法第922条)
被相続人の資産を相続しつつ、債務は資産額の限度でのみ相続する意思を表示すること。
② 単純承認(民法第920条)
被相続人の資産と債務を無制限に相続する意思を表示すること。
限定承認は、被相続人の資産と債務のどちらが多いか分からない場合などに、利用される場合があります。ただし、限定承認は相続人全員がそろって行う必要があります。
相続放棄と限定承認を行わない場合は、自動的に単純承認となります。また、相続財産の処分などを行った場合も、相続を単純承認したものとみなされます(民法第921条)。
単純承認をして問題ないかどうかは、被相続人の資産と債務を比較するなどして、適切に判断することが大切です。
2、相続放棄をした場合、被相続人の借金は誰が払う?
以下では、相続放棄をした場合に残った被相続人の借金がどうなるかを解説します。
-
(1)一部の相続人だけが相続放棄をした場合|他の相続人が支払う
一部の相続人だけが相続放棄をした場合には、残ったほかの相続人が被相続人の債務を支払います。
被相続人が死亡時に有した可分債務(借金など分割できる債務)は、遺産分割の対象にならず、法定相続分に従って当然に分割されます(最高裁昭和34年6月19日判決)。
一部の法定相続人が相続放棄をした場合は、残りの相続人の間で借金の返済義務が当然分割され、法定相続分に応じてそれぞれが借金を返済します。 -
(2)相続人全員が相続放棄をした場合|相続財産の限度で支払われる
相続人全員が相続放棄をした場合、借金を含めた遺産の管理は相続財産清算人(旧:相続財産管理人)に引き継がれます(民法第952条第1項)。
相続財産清算人は、選任の公告がなされた後、相続債権者に対して2か月以上の期間を定めて、請求の申出をすべき旨の公告を行います(民法第957条第1項)。
請求の申出がなされた債権については、相続財産清算人が公告期間満了後に、遺産の限度で債権額の割合に応じて支払います(民法第957条第2項、第929条)。
3、被相続人の死亡を知ってから3か月経過後に借金が発覚した場合、相続放棄できるのか?
相続放棄には期限がありますが、相続開始から長い期間がたってから借金の存在が判明した場合には、被相続人の死亡を知った時から3か月がすでに経過してしまっているという可能性もあります。
このような場合でも、事情によっては相続放棄が認められる可能性があります。
-
(1)相続放棄の期間|相続開始を知った時から3か月以内
相続放棄ができる期間は、自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内です(民法第915条第1項)。
相続順位が最上位の場合(例:被相続人の配偶者、子)は、原則として、被相続人の死亡を知った時が3か月の起算点となります。
これに対して、先順位相続人が相続放棄をしたことで相続権が回ってきた場合は、原則として、先順位相続人が相続放棄をした事実を知った時が3か月の起算点です。
相続放棄の期間が経過した場合は、相続放棄が認められません。 -
(2)遅れた事情によっては、相続放棄が認められることもある
手続きが遅れたことについてやむを得ない事情がある場合には、被相続人の死亡を知った時から3か月や先順位相続人が相続放棄をしたことを知った時から3か月を経過していても、例外的に相続放棄が認められることがあります。
特に借金が後から判明した場合には、被相続人の死亡等を知った日から3か月を過ぎていても相続放棄が認められやすい傾向にあります。
相続を認めてもらうためには、借金の存在が判明した経緯について、家庭裁判所に対して説明を尽くすことが大切です。
4、相続放棄の手続きを弁護士に依頼すべき理由
以下では、相続放棄をする際に、手続きを弁護士に依頼すべき理由を解説します。
-
(1)期限に間に合うように手続きができる
確実に相続放棄をするためには、期限に間に合うように手続きを行うことが大切です。
不慣れな状態で対応すると、相続放棄の準備に想定以上の時間がかかってしまうおそれがあります。
弁護士に依頼すれば、スムーズに必要書類を準備したうえで、期限に間に合うように相続放棄の手続きを行うことができます。 -
(2)煩雑な書類の収集や申請手続きを一任できる
相続放棄をするに当たっては、戸籍謄本などの必要書類を集めなければなりません。
特に被相続人の配偶者または子以外の方が相続放棄をする場合(直系尊属、兄弟姉妹、代襲相続人)には、必要書類の種類や分量がかなり増えます。
複数の役所から戸籍謄本などを取り寄せなければならないため、多くの手間がかかることになるのです。
また、必要書類を提出した後は、裁判所からの照会に回答する必要があります。
回答内容が不適切だと、相続放棄が認められないおそれがあることに注意が必要です。
弁護士に依頼すれば、相続放棄に必要な書類の収集や、裁判所に対する申述手続きを一任して、自身の負担を軽減しながら適切に手続きを進めることができます。 -
(3)複数人の相続放棄もまとめて依頼できる
相続放棄の書類は相続人間で共通しているので、まとめて相続放棄をすれば手間が省けて便利です。
弁護士には、複数人の相続放棄をまとめて依頼することもできます。 -
(4)被相続人の死亡等を知った時から3か月が過ぎた相続放棄も依頼できる
被相続人の死亡を知った時または先順位相続人の相続放棄を知った時から3か月がたっている場合には、家庭裁判所への理由説明が必要になります。
遅れたことについて合理的な理由を説明できなければ相続放棄が認められないおそれもあるため、慎重な対応が必要です。
弁護士には、被相続人の死亡等を知った時から3か月が過ぎた後の相続放棄を依頼することができます。専門家である弁護士なら、家庭裁判所に合理的な理由を説明して、相続放棄が受理されるようにサポートすることができます。
5、まとめ
相続では、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。亡くなった被相続人が残した相続財産がマイナスの財産しかない場合は、相続放棄を検討する方も多いでしょう。
ただし、相続放棄をすべきか否かは、相続財産に含まれる資産と債務を比較するなど、適切な検討を行ったうえで判断する必要があります。また、相続放棄の手続きには期限があることにも留意して、早めに準備を進めることが大切です。
相続放棄の手続き自体は個人の方が容易に行えるものですが、相続財産の確認が難しいケースや、親族間で争いになりそうなケースもあるでしょう。ベリーベスト法律事務所 福山オフィスでは、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。悩まれているのであれば、ベリーベスト法律事務所 福山オフィスにへ相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています